(前回から読む→「大ヒットと大炎上をデジカメ「P1」で味わう」)

ソニーグループ副会長・石塚茂樹さん(以下、石塚):「DSC-P1」(2000年発売)は本当に大ヒットで、全世界で好評でした。前回申し上げたように、ヒットしたのに大クレームが発生したので、ダメージがでかかったんですけれども。

P1から始まった「Pシリーズ」は、2005年の「DSC-P200」まで続く主力になりますね。トラブルのお話は別途伺えたらと思いますが、「デジカメ戦記」を先に進めましょう。

ソニーグループ副会長、石塚茂樹さん(写真:大槻純一)
ソニーグループ副会長、石塚茂樹さん(写真:大槻純一)

石塚:P1からちょっと戻ってしまうんですが、F505Kの話をするのを忘れていました。これ、覚えていますか。

もちろんです、一度見たら忘れられません。レンズが主役で本体がそこにくっついたかのような思い切った外観です。型番からいくと、サイバーショット初代機、DSC-F1からF55Kへと継承されたFシリーズなんですね。

DSC-F505K(1999年9月発売)有効211万画素、35ミリフィルムカメラ換算で焦点距離38~190ミリ(F2.8~3.3)の5倍ズームレンズを搭載。レンズ部が回転するが自撮りはできない(製品画像提供・ソニーグループ、以下同)
DSC-F505K(1999年9月発売)有効211万画素、35ミリフィルムカメラ換算で焦点距離38~190ミリ(F2.8~3.3)の5倍ズームレンズを搭載。レンズ部が回転するが自撮りはできない(製品画像提供・ソニーグループ、以下同)

石塚:そう。F1の特徴である自撮りができる回転レンズだと、ズームレンズが入らないというお話は前回しましたね。そこで「とにかくズーム付きと、回転レンズを両立させるとどうなるのか」を試みた製品です。デザイナーは、F1、そしてテレビの「プロフィールスター」ってご記憶ありますかね、あれをつくった、さまざまな製品の原器を担当されたSさんという方です。伝説のデザイナー。

 僕らは当時、社内の中期計画を考える際に、こんなのあったらいいな、欲しいなというデザインとかモックアップとかを、デザイナーと一緒に考えるんですね。「中身が実現できるかどうかはさておき、こんなのあったらいいよね」という。Sさんに「F1のコンセプトで、ズームレンズ搭載機」をお願いしたところ、このデザインが生まれた。

 ですが本当はレンズがもっと、この写真より全然小さかったんですよ。「よし、やろう」となったんだけれども、結局、エンジニアが設計したら、レンズ部が茶筒みたいに、すごくでかくなっちゃって。

茶筒、たしかに(笑)。そうだったんですね、もともとレンズが主役のデザイン、というわけでもなかったんですか。

石塚:うん。だけど、逆にここまでレンズがでかいんだったら、ボディーを握るんじゃなくて、レンズを持って、右手でボディーを回転させるようにしようということになって。あと、このキャビネット(筐体、きょう体)もプラスチックじゃなくて、金属を多用して質感が高かった。機能面でも5倍ズーム搭載で。最初のモックとは違うけれど、非常にいいモデルができて、私もずいぶん長い間、子供の成長記録とかサッカーの撮影をこれでやっていました。

ふと思ったのですが、このデザインが後で出てくるミラーレスの「NEX」シリーズに影響している、ということはありませんか。

石塚:それはないと思いますよ。でも、今までにない斬新なデザインを目指したところは共通していますね。

レンズの上の出っ張りは、ストロボですよね。

石塚:はい、ポップアップします。

すごいところに置いたなと当時びっくりしましたが、これは「ストロボを光軸上に置く」ためでしょうか?

石塚:はい、基本を守って、マジメにやらせていただきました。

でも前回伺ったように、次の年のP1では「やっちゃえ、ソニー」で、レンズの横に置いちゃうわけですね(笑)。

石塚:F505Kのストロボの位置は、本音を言えば小さなボディには置き場がなく、レンズの上に置くしかなかったのです。それにボディに付けても巨大なレンズに光がケラレて被写体に届かないですし。

なるほど! さて、このF505Kは売れたんでしょうか。