(前回から読む→「ソニーのデジカメ、初の大ヒットはちょっと意外なあのカメラ」)
メモリースティック登場
前回は、ソニーのデジタルカメラを世界に広げたのは、フロッピーディスク記録の「デジタルマビカ」(MVC-FD5、FD7、1997年発売)だったという、意外なお話を伺いました。日本にいると、「ソニーのデジカメ」といえば初代サイバーショットの「DSC-F1」(1996年発売)の印象が強いんですが。
ソニーグループ副会長・石塚茂樹さん(以下、石塚):F1は日本では売れました。しかし海外では、電池が持たないこと、内蔵メモリーしかないので、パソコンに画像データを転送するのに時間がかかること、などが響いて全然売れませんでした。もう一つ、回転レンズで自撮りができるのが大きな特徴だったのですが、これは単焦点なので、ズームができない。

F1はその後も独特のデザイン、質感で「Fシリーズ」としてサイバーショットの一角を支え続けます。現在の視点で見ても古びないですね。ガジェットの楽しさにあふれていて。
石塚:F1はマイナーチェンジを重ねつつ、記録メディア「メモリースティック」を搭載し、バッテリー容量を増やした「DSC-F55K」で、仕切り直しを図りました。

そうだ、メモリースティックがこの頃登場するんですね。当時のデジカメ用の記録メディアとしては、東芝が始めたスマートメディア、そしてコンパクトフラッシュがありましたよね。
石塚:現場はスマートメディアを使おうと言っていたんですけれど、うちの上層部はまた……。
また?
石塚:「人のやらないことをやるのが、ソニーだ」みたいな感じで、軍門に下るなとか、自分たちでやれとか。それでメモリースティックの採用ということに。それ自体は正しいと思うんですけれど、ね。
全社横断組織の「メモリースティック事業センター」が設立されて、僕もメンバーになったんですが、これもまた大変でした。カメラで撮ってメモリースティックに記録しても「相手」がいないとどうしようもないわけです。そこで、パソコンにつなぐアダプターやリーダーを作ったり、フォトフレームを作ったり、プリンターに入れたりと、色々な「相手」を開発したんです。でも後々、メモリースティックはサイバーショットにとって足かせになるんですね。ソニーしかやっていないから。
結局、ファミリーができなかったんでしたっけ。
石塚:大きなファミリーはできませんでした。
それはつらい。規格競争はソニーにとって鬼門の印象があります。
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