今回から、ソニーグループ副会長、石塚茂樹氏のインタビュー連載を始めます。

石塚 茂樹(いしづか・しげき)
石塚 茂樹(いしづか・しげき)
1981年4月ソニー入社。2001年 4月 パーソナルイメージングカンパニー プレジデント。 04年8月ソニーイーエムシーエス(現ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ)執行役員常務。06年11月ソニーデジタルイメージング(DI)事業本部長。業務執行役員SVP、デバイスソリューション事業本部長、DI本部長、執行役EVPを経て17年4月ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ代表取締役社長。ソニー専務を経て20年4月ソニーエレクトロニクス(現ソニー)代表取締役社長兼CEO、20年6月ソニーグループ代表執行役副会長(現・副会長) (写真:大槻純一)

糸口は故・小田嶋隆さんと“スシ”でした

 2022年秋、石塚さんが故・小田嶋隆さんのコラムを惜しむメッセージを編集部にくださったのをご縁に、インタビューする機会をいただいた(小田嶋さんが書いていた「ソニーへの手紙」)。

 石塚さんはソニーのデジタルカメラ部門を長年率いてきた方、という予備知識はあったので、話のネタにと思って仕込んできた自分のデジカメを、インタビューの終わりに出してみた。

「実はこんなものを持っているんですが」
「おっ、“スシ”じゃねえか!」

ソニー サイバーショットDSC-U10 画素数は130万、ちゃんとオートフォーカスで背面液晶も装備。かわいいったらありゃしません。とても処分できず、家の引き出しにしまってありました。
ソニー サイバーショットDSC-U10 画素数は130万、ちゃんとオートフォーカスで背面液晶も装備。かわいいったらありゃしません。とても処分できず、家の引き出しにしまってありました。

「スシ? スシってあの寿司ですか?」
「そうそう。当時(2002年発売)、欧州に持っていったら、このホワイトのモデルがちょうどシャリに見えるっていうんで、現地の人が『スシ、スシ』って喜んでね」
「じゃあひとつ、板前風の写真を撮らせていただいてもいいでしょうか」
「こんな感じ? へい、お待ち!」

サイバーショットU10、生みの親の手で握られる、の図
サイバーショットU10、生みの親の手で握られる、の図

 石塚さんの意外なノリの良さにびっくりしつつ、脳内ではとっくに枯れたと思っていた「ソニーファン」魂と好奇心がシンクロし始めた。小田嶋さんのコラムを面白がる余裕、節度を持ちつつも歯切れのいい物言い。この人ならきっと……。「よろしかったら、石塚さんを通して、ソニーのデジタルカメラのこれまでの歴史を振り返る企画をやらせてもらえませんでしょうか」。気が付いたら口説き始めていたのだった。

 以上が本連載開始の経緯です。ソニーの「ものづくり」の牙城として今も高い利益を稼ぎ出しているデジタルカメラの来し方を、開発の最前線に立ち続けた技術者、そしてスマホ来襲の中でデジカメを生き残らせた経営者でもある石塚さんに、根掘り葉掘り伺っていく。その中から、日本のメーカー、そして日本の技術者が、再び輝く手がかりを掘り出せたらと祈っています。そしてホンネを申せば、ソニーのデジカメの戦いの歴史って、すごく面白そうではないですか!

ずうずうしいお願いに応えていただいて本当にありがとうございます。何か、資料までご用意いただいたそうで。

石塚:共有画面、映っていますか。ソニーのデジタルカメラの歩みを振り返ろうということですよね。じゃ、さっそく。ソニーのカメラと言えば、まず「マビカ」。

マビカ MVC-C1(1988年発売) アナログ記録で画素数は28万。ソニーのレジェンド技術者、故・木原信敏さんが手がけた(製品画像提供・ソニーグループ、以下同)
マビカ MVC-C1(1988年発売) アナログ記録で画素数は28万。ソニーのレジェンド技術者、故・木原信敏さんが手がけた(製品画像提供・ソニーグループ、以下同)

ありました。この新聞広告は覚えています。「カメラなのにフィルムがいらないんだ、テレビで見るんだ、その手があったか!」と驚きました。

石塚:開発発表は1981年でした。ちょうど私がソニーに入社した年です。正確には「デジタル」カメラではなくて、2インチのフロッピーディスクにアナログで記録する電子カメラなんですよね。発売は88年でした。

テレビには、カメラ本体からビデオ出力するんですか。

石塚:再生用のアダプターがあったんです。

今見直すと、アップルの「QuickTake 100」に似ていなくもないですね。あれはチノン製でしたっけ。

石塚:これはキヤノンとの共同開発でした。私はマビカには関わっていないので、全部聞いた話なんですけれども、キヤノンで社長を務められた真栄田雅也さん。

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