「誰もが『ウィンウィン』になれるような規制改革をやる余地は限られてきている」--。政府の規制改革推進会議で議長を務める大槻奈那氏は日本にはびこる閉塞感について厳しい見方を示す。政府が民間企業を支援してもGDP(国内総生産)の拡大に結び付かず、一方で規制緩和による民間活力の引き出しも順調とは言い難い。私たちは今、何に取り組むべきなのかを、大槻氏に聞いた。

大槻 奈那(おおつき・なな)氏
大槻 奈那(おおつき・なな)氏
ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー、名古屋商科大学ビジネススクール教授。東京大学文学部卒。英ロンドン・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)、一橋大学で博士号を取得。証券会社のアナリストを歴任し、財務省の財政制度等審議会委員なども務める。2022年10月、規制改革推進会議の議長に就任。(写真=的野 弘路)

2019年から規制改革推進会議の委員を務められ、昨年10月には議長に就任されました。規制改革を進める意義について改めて教えてください。

規制改革推進会議の大槻奈那議長(以降、大槻氏):規制改革なしに日本の成長はおぼつかなくなっています。日本の潜在成長率が低迷している要因は労働投入量の不足、つまり労働力不足にあります。政府は支出を増やして経済をテコ入れしようと動いてきましたが、結局、その多くは消費ではなく貯蓄に回ってしまいました。近年はお金を使っても名目GDPの成長につながらなくなってきたのです。

人口減に対応した規制改革は不可欠

 人口は今後も確実に減少し、お金を使っても成長できなくなっている。とすれば、別の方法を模索するしかありません。そこで重要になるのが規制改革です。労働から資本、さらには生産性の向上から技術革新まで、それぞれの分野で課題になっている規制を見直していかなければ、難しい環境にある中で成長を続けることはできません。

 ただ、痛みが少なくて済む改革を実行する余地は限られてきているとも感じています。1995年に行政改革委員会規制緩和小委員会が設置されて以来、形を変えて現在まで改革の取り組みは続いてきました。腰を据えて、中長期的な課題に取り組みやすくなったとは言えます。一方で、改革をやっていけばやっていくほど、取り組むべき岩盤規制は固くなっていきます。

 改革が必要な案件を募ると、今も数百件もの要望が集まります。これを一つずつ精査していくのですが、ただ全ての利害関係者にとってメリットになるような、「ウィンウィン」になれるような取り組みは少なくなってきました。

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