中国との統一に反対する台湾の人々(撮影は2008年10月25日)(写真:AP/アフロ)
中国との統一に反対する台湾の人々(撮影は2008年10月25日)(写真:AP/アフロ)

台湾有事が懸念されている。そもそも、なぜ中国は台湾統一にこだわるのか。話は、日中戦争の終結後に再燃した国共内戦に遡る。そして、統一がなると日本にいかなる影響が及ぶのか。安全保障の専門家が懸念するのは、米国の防衛ラインが西に後退する事態だ。

 中国はなぜ台湾統一にこだわるのか。その起源は日中戦争終結後の国共内戦再開にさかのぼる。毛沢東率いる中国共産党軍と蒋介石率いる国民党軍が内戦を再開した。これに共産党が勝利し、敗れた国民党は台湾に渡った。これにより共産党は中国大陸の「解放」を実現したが、台湾は「解放」し得なかった。このため、毛沢東時代の中国は「台湾武力解放」を方針とした。今日でも、台湾の解放は実現していない――。この認識が今も中国の考えの根底にある。

 ただし、「武力解放」については変化してきた。鄧小平は1979年、話し合いによる「平和統一」に方針を変えた。「一国二制度」は、香港をめぐって人口に膾炙(かいしゃ)するようになったが、もともとは台湾を念頭に置いた案だった。当時の国民党トップの蒋経国はこの提案を拒否した。

 鄧小平と蒋経国が台湾海峡両岸のトップにおり、中国が米国との国交正常化を議論していた頃は、台湾海峡の両岸が一つの中国であることについて、共産党と国民党の間に意見の相違はなかった。どちらも、中国大陸と台湾は中国に属すると考えていた。

 これが変化し始めたのは、93年頃のことである。国民党のトップとして台湾総統の地位にあった李登輝氏は「台湾アイデンティティー」を示し始めた。国連に再加盟する運動を展開。中台関係は「国家と国家の関係。少なくとも特殊な国と国の関係」とする「二国論」を主張した。

 李登輝氏は内政において民主化を推進。96年の総統選は台湾の人々による直接選挙とし、民主進歩党(民進党)の彭明敏と争った。民進党は独立を理念としており、統一を拒否している。つまり、台湾で民主化が進んだため、統一を拒否する政党が誕生し、人々から一定の支持を得るようになった。

 2021年に実施された世論調査によると「現状維持」が55.7%、「独立志向」が31.4%、「統一志向」が7.4%。前2者を合わせて90%近くが「統一拒否」の考えを持っている。

 08年に総統に就任した国民党の馬英九氏は民意を理解し、「統一も独立もしない」との公約を掲げて当選した。国民党の理念である統一を封印し、現状維持を選んだわけだ。ただし、馬英九政権は経済面では中国との関係を深化させた。これを警戒して起きたのが学生たちによる「ひまわり学生運動」だった。

 失速した馬英九政権に取って代わったのが、民進党の蔡英文政権である。同氏も民進党の理念である独立を封印し、現状維持を貫く。「独立」に進めば、武力統一の口実を中国に与えかねないからだ。

 ただし、蔡英文政権は「一つの中国」を否定する。これは、中国が「話し合い」の前提とするもの。それを受け入れない同政権との間で「平和統一」は実現しそうもない。このため、中国は「武力による威嚇」をてことする現在の統一政策にかじを切った。台湾の専門家はこれを強制的平和統一と呼ぶ。

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