バイデン政権は「Made in America」を推進する。中国依存を減らす動きが勢いを得つつある(写真:AP/アフロ)
バイデン政権は「Made in America」を推進する。中国依存を減らす動きが勢いを得つつある(写真:AP/アフロ)

 台湾有事は果たして起こるのか。起こるとしたらいつか。どのような事態が生じるのか。確かなことは誰にも分からない。だからこそ、日本企業は台湾有事を想定して、備えを固める必要がある。

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は台湾を統一すると明言している。「最大の誠意をもって最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしている」と言うが、これまでの中台関係を考えれば、実現は容易ではない。台湾世論は「台湾アイデンティティー」を強めており、統一を拒否している。

 米中の覇権争いも激化する一方で、負の連鎖が止まらない。米国は、これまでの「一つの中国政策」を破棄するのではないか――。2022年9月、「米軍は台湾を守るのか」とテレビのインタビューで問われたジョー・バイデン米大統領が「はい(YES)、もし実際に前例のない攻撃があれば」と回答するなど、米国の行動が中国の疑念を招く。他方、中国の行動が米国を駆り立てる。香港における国家安全法の施行は、民主主義を軽視し、国際約束を破る行為に映る。

 こうした環境にある以上、中国は「決して武力行使の放棄を約束」(習氏)しない。

 よって、日本の企業は「現実世界」に引き戻されたと考えるべきだろう。経済は政治から独立ではいられない。冷戦終結後に謳歌した、経済合理性だけを追求すればよい「バラ色の世界」は幕を閉じた。

 ならば、いかに備えるか。その第1は、台湾と中国で働く従業員の安全確保と帰国の支援だ。日本が米国を支援しないよう、中国は日本に圧力をかける。そのシグナルを少しでも早く察知し、対策を講じる必要がある。何をシグナルとするか、従業員をどの順番で帰国させるかなど、マニュアルにまとめて共有する作業が欠かせない。

サプライチェーンの稼働維持に13兆7000億円

 備えの第2は、ビジネスにおける中国依存を減らすことだ。

 「中国拠点を縮小・撤退する」コストについて、オウルズコンサルティンググループが行った試算が興味深い。日本のすべての製造業が、中国で運用する輸出(対日輸出に限る)拠点を日本もしくは新興国の新拠点で代替する――。このシナリオに基づきコストを算出した。移転の初年度に生じるコストはおよそ13兆7000億円と見込まれる。内訳は下の表の通り。

[画像のクリックで拡大表示]

 試算の前提はこうだ。日本への輸出品は中間財と最終品の両方を含む。これらを生産するため中国で運用している輸出拠点の撤退と、日本もしくはASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国をはじめとする新興国への移転、新拠点の稼働を同時に実施すると仮定。したがってこの金額は、台湾有事を念頭に、製造業のサプライチェーンを継続稼働させるためのコストと位置づけることができる。

 「台湾有事で自動車生産停止!?中国に対する不可欠性は韓国に劣後」の回で、早稲田大学の戸堂康之教授らの試算を紹介した。日本が中国から輸入しているすべての中間財を対象に、その80%が2カ月にわたって途絶したら、日本の製造業全体の生産金額がどれだけ減少するか、というものだ。オウルズコンサルティングの試算は、同教授らが算出したダメージを生じさせないためのコスト+αと言い換えることができるだろう。

次ページ 日本企業にも抑止力がある