中国は、台湾を支援する米国に日本が協力しないよう、人、物、カネのすべてにおいて日本に圧力をかける。では、米国は日本に対し、どのような協力を求めるのだろうか。ここでは、中国海警局が台湾を兵糧攻めにすべく南シナ海で“規制”を敷くケースを例に取る。米国は以下を要請する可能性がある。(1)台湾に物資を運ぶ外国籍の商船に日本国籍を与える、(2)台湾を仕向け地とする商船を防護する米海軍の艦艇に対する給油措置――。いずれも、法律が絡み、実行するにはハードルがある。他方、米国からの要請を拒否するならば、日米関係にさざ波が生じかねない。

合同で演習する海上自衛隊と米海軍。現実の協力に当たっては、さまざまな法律の縛りがある(提供:US Navy/SWNS/アフロ)
合同で演習する海上自衛隊と米海軍。現実の協力に当たっては、さまざまな法律の縛りがある(提供:US Navy/SWNS/アフロ)

 今回は、米国からの協力要請について考える。台湾を支援する米国に日本が協力しないよう、中国は人、物、カネのすべてにおいて日本に圧力をかける、と述べてきた。では、米国は日本に対し、どのような協力を求めるのだろうか。

 その究極は、「共に戦う」ことだ。

 実はこの点について、「日米防衛協力の指針」いわゆるガイドラインには、不思議な部分がある。ガイドラインは、日米が防衛協力する際の基本的な枠組みや方向性について定めた合意文書

:ただし、法的拘束力はない

「共に戦う」とは約束していない日米ガイドライン

 このガイドラインの中に「存立危機事態において日本が戦闘に参加するとは限らない」と読める記述がある。存立危機事態は、(1)日本と密接な関係国に武力攻撃が発生し、(2)日本の存立が脅かされるなどの明白な危険があるケースで、(3)武力行使以外他に適当な手段がない場合。政府がこの事態を認定すれば、武力行使ができるようになる。

 中国が台湾武力統一に動き、これに米国が介入。米中両国が武力衝突に至れば、存立危機自体が認定されうる、と自衛隊OBはみる。

 ガイドラインは、日本政府が存立危機事態を認定したものの、日本が武力攻撃を受けるに至っていないとき、日米が協力して行う作戦として以下を挙げる。(1)アセットの防護、(2)捜索・救難、(3)海上作戦、(4)弾道ミサイル攻撃に対処するための作戦、(5)後方支援――。(1)~(5)はいずれも武力行使を直接意味するものではない。

 岸田文雄首相が1月13日に訪米した際に、国家安全保障戦略の改定について説明し、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくことで合意した。その趣旨から考えて、「日本が共に戦う」とガイドラインに明記する方向で改定の議論が進んでもおかしくはなかった。けれども同日、ロイド・オースティン米国防長官と会談した浜田靖一防衛相は「日米ガイドラインの見直しは現在においては考えていない。しかし、これからも不断に検討していく」と記者会見で述べている。

 日米関係に詳しい中林美恵子・早稲田大学教授は本誌の取材において、次の点を指摘した。「米国の視点に立てば、日本が戦う姿勢を明確にする方が好ましいだろう。日本の強いコミットメントを感じると考える。また存立危機事態は『日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態』。日本が戦わないとすれば不思議な話だ。戦う意志を示さなければ抑止にならない」(関連記事「『自分の国は自分で守る』、戦後最大の転換を米国に示した岸田首相」)

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