台湾有事でエネルギー資源の輸送ルートが途絶える。新たに注目されるのは石炭だ(写真:ロイター)
台湾有事でエネルギー資源の輸送ルートが途絶える。新たに注目されるのは石炭だ(写真:ロイター)

 前回は、中国による台湾兵糧攻めが、日本と台湾、および日本と中国の貿易に与える影響を取り上げた。今回は、物の流れに及ぶ影響の第3、すなわち、中東・インド方面からマラッカ海峡を抜けて南シナ海に入り、台湾の脇を通るシーレーン(海上交通路)の安全が損なわれる影響について考える。

 「台湾有事」という表現が人口に膾炙(かいしゃ)するようになったが、その影響は台湾および中国との貿易に収まるものではない。商船は当然、中国による軍事演習が続く海域の航行を避ける。中国海警局による“規制”の対象が台湾を仕向け地とする商船だけであっても、停船を求められれば危険を感じる。

原油価格上昇で巨額の国富が流出

 まず、頭に浮かぶのは中東産原油の購入コストの高騰だ。日本は1次エネルギー国内供給のうち約36%を石油に依存している(2020年度)。2021年は約1億4400万キロリットルの原油を輸入した。金額にして約6兆9000億円に上る。このうちサウジアラビアをはじめとする中東産が約92%を占め、その大半がインド洋を東に向かい、マラッカ海峡を抜け、南シナ海を経由して日本に至る。中国による台湾兵糧攻めが始まれば、原油価格と輸送コストの両方が上昇する可能性が高い(下の図)。

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 ロシアがウクライナ侵攻した2022年2月末以降の原油市場の動きを参考に、この影響を試算してみよう。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は侵攻直後1バレル約90ドルから120ドル超に跳ね上がった。21年の日本の貿易構造において、1バレル120ドルが3カ月続いたと仮定すると、原油購入コストは約1兆5000億円上積みされる。これに円安が追い打ちをかけるのは必定だ。巨額の国富が流出することになる。

 中国は、ロシアのような中核原油輸出国ではないため、原油価格の上昇はこれほどにはならないかもしれない。だが、少なくとも輸送費の上昇は免れ得ない。日本が輸入する原油の約92%が通る台湾沖ルートが使えなくなるからだ。

 タンカーの運賃を決める要素の1つに距離がある。マラッカ海峡を抜ける通常ルートの場合、中東から日本までの航行距離はおよそ1万2000km、日数にして17日程度を要する。このルートが航行不能となった場合、代替ルートとして、インド東側のベンガル湾を南下し、インドネシアの南側からロンボク海峡とマカッサル海峡を抜け、西太平洋を北上するルートが考えられる。輸送距離は通常の約1万2000キロメートルから約1万3900キロに伸び、航海日数は約17日から約20日に増える。この分、輸送費が上昇する。

 迂回に伴う割増運賃は距離とWS(ワールドスケール)を参考に決められる。WSは原油タンカーの運賃指標だ。湾岸戦争(1991年)、米同時テロ(2001年)、イラク戦争(03年)といった有事のたびに急騰してきた。

 加えて、航海日数が増えれば原油タンカーの数を増やす必要も生じる。果たして確保できるだろうか。

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