中国からの輸入が滞れば53兆円が吹き飛ぶ

 第2として、日本と中国との貿易が細る恐れがある。中国が台湾を兵糧攻めにする挙に出れば、日本と米国、さらに欧州諸国が対中経済制裁に踏み切る公算が大きい。この経済制裁に対する報復として、中国が西側への輸出を制限することが考えられる。

 さらに、西側諸国が経済制裁を科さなくても、中国が日本への輸出を制限する恐れがある。日本が台湾および米国を支援することがないよう、中国がエコノミック・ステートクラフト(ES)を繰り出すことが十分考えられる。ESは、ある国が価値観や意図を、経済的手段を通じて他国に押しつけることを言う。例えば、10年に沖縄県・尖閣諸島周辺の海域で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突する事件が起きた際、中国はレアアース(希土類)の輸出を一時ストップした。中国は、日本が中国漁船の船長を拘束したことに不満を示すべく、この措置に出たとみられる。

 以前の回で「米軍の介入を招きたくない中国は、日本に圧力をかけ米軍の展開を阻止する。圧力をかける対象は人、物、カネのすべてに及ぶ」と記した。中国が輸出制限を日本に科せば、これは物を対象にした圧力と位置づけることができる。

 中国との貿易が滞った場合、日本経済にどれだけのダメージが生じるだろうか。

 日本は自動車部品と半導体において、その脆弱性を中国にさらしている。自動車部品における中国への依存度は約39%。旗艦産業の首根っこを中国に押さえられている形だ。ダイオードなど単機能の半導体部品においては約51%に及ぶ(上の図)。単機能だからといってその重要性が低いわけでは決してない。

 中国からの中間財の輸入が途絶したら――。この問題を考えるのに早稲田大学の戸堂康之教授が取り組んだ研究が参考になる。日本が中国から輸入しているすべての中間財を対象に、その80%が2カ月にわたって途絶。同教授はこの仮定に基づいて日本全体の生産金額にどれだけの打撃が及ぶかを試算した。

 はじき出された金額は、なんと約53兆円。中間財の輸入が滞れば、それらを利用する最終製品は生産できない。国内で利用する製品はもちろん、輸出する製品にも影響する。

 試算は日本の製造業が平均9日分の在庫を保有していると仮定した。同教授が東日本大震災での経験を基に推定した数字だ。この在庫のおかげで、途絶期間が2週間くらいまでなら大きな影響は生じない。しかし、在庫が尽きると、ダメージの大きさは加速度を増しつつ拡大するという。

 中国からの中間財が途絶した場合、日本の製造業全体の生産金額を最も大きく減少させるのはどの産業か。同教授は産業別の深掘りにも取り組んだ。答えは第1が電気機器(下の図)。第2が情報通信機器と生産機械。この後に化学、機械、電子部品・デバイスなどが続く。

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