中国・深圳港。多くの積み荷を積んだコンテナ船が集まる(写真=Costfoto/アフロ)
中国・深圳港。多くの積み荷を積んだコンテナ船が集まる(写真=Costfoto/アフロ)

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中国が台湾兵糧攻めに着手すれば、日台間の貿易はもちろん、日中間の貿易も滞る。早稲田大学の戸堂康之教授が取り組んだ試算によると、中国から輸入しているすべての中間財の80%が2カ月にわたって途絶したら、日本全体の生産金額が約53兆円ダウンするする。貿易は相互性を持つため中国もダメージを受けるが日本よりは小さそうだ。さらに、米中貿易において、中国に対して日本ガ持つ不可欠性は韓国に劣る。

 台湾兵糧攻めでダメージを受けるのは台湾だけではない。日本経済にも甚大な負の影響をもたらし得る。ここでは、物の流れに及ぶ3つの影響について考える。

半導体が手に入らない

 第1として、台湾と日本との貿易が途絶する事態が想定される。下の表に示したように、2021年の貿易構造に照らせば、GDP(国内総生産)を最大1.1%下押しする要因になる。21年の実質GDP成長率は2.5%増。1.1%がいかに大きな値であるか実感できるだろう。

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 台湾積体電路製造(TSMC)などの大口顧客を台湾に抱える半導体関連企業が被る痛手は巨額だ。世界最大手の一角を占める東京エレクトロンでは半導体製造装置の売上高の約18%を台湾向けが占める。日本全体で見ると、台湾向けは半導体製造装置の輸出の約23%に及ぶ。

 ダメージは輸出にとどまらない。

 日本は多機能半導体部品(集積回路)の輸入の約55%を台湾に依存している(下の図)。これらが入手できなくなれば、これらをパーツとして使用する家電やIT(情報技術)製品の製造が困難になる。トヨタ自動車のハイブリッド車(HV)も、キヤノンのデジタルカメラも、パナソニックホールディングス(HD)のエアコンも生産が止まるかもしれない。供給制約は国内消費を下押しするのみならず、輸出ビジネスも成り立たせなくする。

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 台湾有事で台湾の半導体産業が止まる事態は以前より現実味を持って受け止められている。TSMCは22年12月初め、工場建設を進める米アリゾナ州への総投資額を従来計画比3倍以上の400億ドル(約5兆2000億円)にすると発表した。TSMCが生産拠点の分散を図っているのは明らかだ。

 半導体業界に詳しいインフォーマインテリジェンス(東京・千代田)の南川明シニアコンサルティングディレクターは「台湾の半導体産業の関係者は台湾有事のリスクが高まっていると感じている。(海外に工場を)出さざるを得ないところまで追い詰められた」と指摘する。

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