中国海警局の巡視船が台湾兵糧攻めの実働部隊となるかもしれない(第11管区海上保安本部/AP/アフロ)
中国海警局の巡視船が台湾兵糧攻めの実働部隊となるかもしれない(第11管区海上保安本部/AP/アフロ)

独立に向けて動いている――。習近平(シー・ジンピン)政権が台湾の動きをそう見なせば、武力統一に動きかねない。これは衆目の一致するところ。他方、これまで台湾独立に反対してきた米国が、その背中を押す可能性があるとの見方も存在する。拓殖大学の川上高司教授は、米バイデン政権が台湾に対し、国際連合への加盟を促すシナリオを想定する。これに対し瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、将来の米共和党政権が台湾独立を承認する方向に動く事態を懸念する。

 前回紹介した、峯村健司氏が考えるシナリオの要点は次の2つに整理できる。第1は、台湾の総統選やバイデン政権の行動を、中国政府が「主観的」に「台湾独立への動き」と見なし、これが、同政権が統一行動を起こす動機となること。つまり、先に動くのは習政権だ。第2は、統一を実現すべく、台湾を事実上封鎖することである。

 それぞれの要点について、異なるシナリオも存在する。第1の要点について、バイデン政権が台湾に対し事実上の独立を促す、との見方もある。つまり、先に動くのは米国だ。拓殖大学の川上高司教授は、バイデン政権が台湾に対し、国際連合(国連)への加盟申請を促すシナリオを想定する。台湾の国連加盟は、中国から見れば、台湾を独立国として認めるのに等しい(関連記事「トランプ氏が出馬へ『分断が深化するも台湾有事の蓋然性下がる』」)

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 「その兆しが既に表れている」(川上氏)。米国のアントニー・ブリンケン国務長官が2021年10月、台湾が国連関連機関に参加するのを支持するよう全ての国連加盟国に訴えた。

バイデン政権は完全に冷戦思考

 米国の狙いは何か。川上氏は、中国の弱体化を図ることとみる。「バイデン民主党政権は、米国や同盟国を民主主義陣営、中国やロシアを専制主義(旧共産主義・非民主主義)陣営と位置づけ、専制主義陣営の力を弱めたいと考えている。その発想は完全に新冷戦だ。米国がウクライナを支援してロシアをたたいているのは、この一環。トルーマン・ドクトリンの現代版と言えるかもしれない」(川上氏)

 トルーマン大統領(当時)は第2次大戦後、東西冷戦の状況を認め、ギリシャやトルコを支援する反共封じ込め策を展開した。

 中国はいかなる反応を示すだろうか。考えられるのは、ロシアによるウクライナ侵攻の東アジアでの再現だ。「中国は、認知戦を含むハイブリッド戦を台湾で展開する可能性がある。バイデン政権はこれをある程度の規模までは容認するだろう。台湾周辺での局地戦は容認し、これに米国が介入することで中国の弱体化を図る。介入の手段として最もあり得るのは『ウクライナ型』。米軍を大規模に動かすことなく、情報を提供したり、武器を供与したりして台湾を支援する」(同氏)

 川上氏が理事長を務める日本外交政策学会は22年11月、この想定に基づいてシミュレーションを実施した。国会議員や元自衛官、外交・安全保障の専門家、米中台の地域研究に取り組む専門家やメディア関係者約40人を集め、米中台そして日本がいかなる反応をするかロールプレイング形式で議論した。

 このシミュレーションのシナリオにおいて中国は、台湾を包囲する軍事演習にとどまることなく、台湾周辺に「排他的水域・空域」を設定。「ここに入る船舶、航空機、潜水艦は敵と見なして攻撃する」と宣言する事態へと進んだ。

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