さらに、ロシアによるウクライナ侵攻がこのときまで続いていれば、米国は欧州とアジアの2正面で紛争を抱えることになる。習政権がこの状況を台湾統一に動く「好機」と見なすことは十分考えられる。
さらに、24年1月というタイミングには、台湾と米国の動向だけでなく中国側の事情もある。習氏は、中国共産党総書記として異例の3期目を手に入れた。この過程で「台湾統一を実現するのに2期では時間が足りないとして反対派を説得した。3重の確認をしたので間違いない」(峯村氏)。習氏がこの約束を守るならば、28年がタイムリミットとなる。
海底ケーブルを切断し情報封鎖
中国は、台湾に「統一」を受け入れさせるべく兵糧攻めを進める。台湾を取り囲む複数の地域において、長期にわたって軍事演習を継続する。ナンシー・ペロシ米議会下院議長(当時)が22年8月に訪台した直後に中国が実施した軍事演習はこの予行演習だったと見る専門家は少なくない(下の図)。民間の船舶や航空機の通航を困難にし、周囲を海に囲まれている台湾の経済を事実上封鎖する。
封鎖の一環として、台湾と世界をつなぐ懸け橋となっている海底ケーブルを中国が切断することも考えられるだろう。台湾は現在、14本(名称ベース)の海底ケーブルで島の外とつながっている。海路と空路に加えて、この電子の道も断ち切る。電子の道が不通となれば情報の流れが止まる。ツイッターが使えなくなれば、頼氏が「台湾のゼレンスキー」になるのは困難だ。
海底ケーブルは意外と脆弱だ。サイバーセキュリティーに詳しい山崎文明・情報安全保障研究所首席研究員によると、深海部では、薄い被膜に包まれただけの直径2センチメートル程度のケーブルが埋設されることなく海底をはっている。漁船のいかりなどで容易に切断できる。海中ドローンを利用すればより確実に実行できるだろう。「切断を防ぐ手段は乏しい」(山崎氏)
海底ケーブルの保護をうたう国際法が存在するものの、機能しているとは言い難い。国連海洋法条約は、公海において自国籍船が「海底電線」を「電気通信を中断し又は妨害することとなるような方法で(中略)損壊」した場合、犯罪として処罰する法を定めるよう締約国に求めている。しかし、こうした法を制定した国は多くない。
さらに処罰の対象は自国籍船のみ。よって、仮に中国船籍の船が台湾に陸揚げされる海底ケーブルを公海において切断しても、警戒監視中にこれを発見した米海軍の艦艇が拿捕(だほ)することはできない。
切断と同様に接続も、台湾に圧力をかける手段となる。大陸と台湾をつなぐ海底ケーブルだけを接続状態にしておけば、中国は、台湾に流入する情報をコントロールし自らの都合のよい情報だけを流すことが可能になる。
海底ケーブルの切断は、実は有事における常とう手段だ。日本は日露戦争において、旅順封鎖を進める過程でロシアが利用する海底ケーブルを切断した。司馬遼太郎氏が『坂の上の雲』で描いた日露戦争の主舞台は日本海海戦だが、その前段階で情報封鎖が行われていたわけだ。
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