中国の戦闘機「J-11」。ペロシ米下院議長(当時)の訪台に反発して実施した軍事演習に加わった(写真:AP/アフロ)
中国の戦闘機「J-11」。ペロシ米下院議長(当時)の訪台に反発して実施した軍事演習に加わった(写真:AP/アフロ)

台湾が独立に向けて動けば、習近平政権は武力統一に動く--。 これは米中台の専門家に共通する見方だ。 そんな動きが2024年1月に始まりかねない。 トリガーとなり得るのは台湾総統選挙である。 台湾は主権を持つ独立国家であると議会で発言して物議を醸した頼清徳氏が当選した場合、習政権はどのように反応するか。 選択肢の1つとして、血を流さない台湾兵糧攻めが浮上する。

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 中国がここ数年のうちに、本格的な武力攻撃による台湾統一に動く蓋然性は低い――。こうした見方がある一方で、近い将来に中国が統一に向けて行動を起こすとの見方も引きを切らない。キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司主任研究員はその一人だ。同氏は朝日新聞の中国特派員として中国を間近に見てきた。次のような事態が起こる可能性を指摘する。

2024年1月の総統選で、民進党が勝利すれば…

 時は2024年1月。台湾総統選で民主進歩党(民進党)の頼清徳氏が当選する。頼氏は18年4月、自身を台湾独立派と位置づけ、台湾は主権を持つ独立国家であると議会で発言して物議を醸した人物だ。

 同氏の当選により、「台湾共和国建国」を志向する党綱領を掲げ、中国が独立派政党と見る民進党が3期連続で政権を担うことになる。台湾では00年以来、民進党と国民党が2期ずつ政権を担当してきた。この“不文律”が崩れる。この状況を、習政権は「独立の動き」と見なす可能性がある。

 ちなみに、民進党が「一つの中国」を否定しているのに対し、国民党は民進党と異なり「一つの中国」を認める立場を取る。「一つの中国」は中国大陸と台湾が中国に属する、との意味。中国は「一つの中国」を認めることを、中台間の話し合いを進める前提としている。中国にとって国民党は「話のできる」存在であるわけだ。

 中国は05年に反国家分裂法を制定し「台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生」した場合、「非平和的方式」な措置を講じることができる、と定めている。何が「分離をもたらしかねない重大な事変」に相当するのか、具体的な規定はない。頼氏の当選と民進党政権の継続がこれに相当するか否かは中国政府の胸三寸で決まる。22年10月の中国共産党大会において習近平(シー・ジンピン)国家主席が習一色体制を築いたことを考え合わせれば、習氏の判断次第と言えるかもしれない。

米国は、戦略的曖昧政策を見直し

 他方、米国のバイデン政権は頼政権を支援する立場を取る。具体的には、台湾の安全保障を促進する米国の取り組みを拡大する台湾政策法を施行する。現在は、米議会上院の外交委員会が可決した状態にある法案だ。

 リチャード・ニクソン大統領(当時)が米中国交正常化に動いた1972年以来続けてきた戦略的曖昧政策も見直す。同政策は、台湾有事に臨んで米国がいかなる対応を取るか明確にしない、というもの。中国には米国が「介入する」と思わせることで武力統一を抑止する。他方、台湾には米国は「介入しない」と思わせることで独立を抑止する。米国のこの見直しを、習政権は台湾独立を支援するものと見なす恐れがある(関連記事「バイデン政権は台湾をめぐる戦略的曖昧政策を変更したのか?」)。

 また、バイデン政権はこのとき、レームダック状態に陥っている可能性がある。2022年10月に行われた中間選挙で与党・民主党は下院で多数派の座を失った。議会は上院と下院で多数派が異なる「ねじれ」状態に陥ったため、同政権の政策運営はこれまで以上に難しくなる。

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