「22歳まで日本人だった」と語った李登輝氏は、今日の日本を予言するような言葉を残していた(写真:ロイター)
「22歳まで日本人だった」と語った李登輝氏は、今日の日本を予言するような言葉を残していた(写真:ロイター)

 ロシアがウクライナに侵攻して1年がたった。収束の兆しは依然として見えていない。この侵攻を歴史の流れに置いて見ると、経済のグローバル化という「統合」と、ソ連(当時)の崩壊を起点とする「分裂」が相まって引き起こした事象と位置づけることができる。この統合と分裂は今も、東アジアにおいて形を変えて存在している。「分裂」とは、中国と台湾の関係を指す。

 加えて、3期目に入る習近平(シー・ジンピン)政権は、台湾統一を共産党の歴史的任務 と位置づける。「最大の誠意をもって最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしている」(日経新聞10月16日付)とするが、その環境は整わない。台湾の民意は「現状維持」であり、「統一」ではない。民主化を遂げた台湾は、国共内戦時の台湾とは異なる。

 よって、中国が台湾武力統一に動く懸念が高まる。

 その蓋然性はどれほどか。仮に、中国が動けば、いかなるシナリオが想定されるのか。そのとき、日本はいかなる状況に陥るか。企業はいかに備えればよいのか。日米中の国際関係、経済、法制など、多面的な切り口で「台湾有事」のありようを分析する。

 日経ビジネス2022年12月26日/23年1月2日号に掲載した「日本を揺るがす米中対峙のシナリオ 台湾有事を直視せよ 人、物、カネ全部止まる」を大幅に加筆修正してお贈りする。

 「台湾が存在を失って中国に制されてしまえば(中略)次には日本の『存在』が脅かされることになる」。台湾総統として民主化を推し進めたことで知られる李登輝氏は、その著書『台湾の主張』(1999年刊行)の中でこう警鐘を鳴らした。

 この後、以下の文が続く。

 「日本の地理的位置づけからみても、台湾とその周辺が危機に陥れば、シーレーンも脅かされて、経済的にもまた軍事的にも、日本は完全に孤立することになってしまうだろう」

 「戦略的にみても、台湾の存在は大きい。日本人の多くは、そのことを十分理解しているとはいえない。台湾は日本にとって、単なる製品の輸出先の、南に浮かぶ島の一つではない。台湾は、日本にとって生命線なのである」

 李登輝氏が今から約24年も前に今日懸念されていることを予言していたように読める。他方、24年前から変わらない状況、否、蒋介石をいただく国民党が毛沢東率いる中国共産党との内戦に敗れ台湾に逃れた1949年以来ずっと変わっていない状況に、私たちが目をつぶってきただけなのかもしれない。

 私たちは今、李登輝氏が記したこの言葉の意味を真剣に考えなければならない局面に臨んでいる。


 中国が2022年8月、台湾周辺の海域に向けて弾道ミサイルを発射した。1995~96年の第3次台湾海峡危機からおよそ27年。この間、激しい波の立つことがなかった海域に再び大きなしぶきが上がった。

 米議会下院のナンシー・ペロシ議長(当時)が台湾を訪問。中国はこれを「台湾を独立主権国家として承認」に向かう動きとみなして反発したようだ。日本では「台湾有事」、すなわち中国による台湾武力統一が改めて人々の耳目を集めることになった。非営利のシンクタンク「言論NPO」が2022年11月に発表した調査結果によると、日本の回答者の約45%が「数年以内」もしくは「将来的」に「台湾海峡で軍事紛争が起こる」と考えている。

 1996年以降最近まで、日本の安全保障政策をめぐる議論の中で、台湾が中心となることはなかった。人々の関心は専ら北朝鮮が開発を進める核とミサイル、そして中国が取り組む軍事力増強と沖縄県・尖閣諸島に対する圧力に向けられてきた。

 そんな台湾がにわかに注目を集めるようになったのは、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)が2021年3月、米議会上院軍事委員会の公聴会で「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と発言したからだ。「2027年」というタイムリミットが突然“設定”された。この年は、中国人民解放軍が創設された1927年から100年目の節目の年でもある。

次ページ 本格的武力攻撃のハードルが高い理由