台湾有事で想定されるシナリオは、台湾への兵糧攻めにはとどまらない。例えば、(1)サイバー攻撃などで台湾社会を混乱させ、時の政権の評価をおとしめ、親中政権への交代を謀る、(2)台湾の政治指導者を暗殺、(3)特殊部隊を投入し短期間で政権を転覆させる奇襲作戦、(4)内乱を起こし、現政権の転覆を謀る、(5)弾道ミサイルによる攻撃──などが想定される。さらに、まだその先もある。

■連載ラインアップ
大胆予測2023:台湾有事に備えよ 兵糧攻めで日本に打撃
・米国と中国の巨大戦力が対峙 日本揺るがす台湾有事の最悪シナリオ(今回)
ウクライナがロシアに勝つ エモット氏「プーチン氏の権力の最後」
油断できぬ為替、1ドル=150円が日常に 日本に構造的な売り圧力
踊らぬ消費、値上げと賃金伸び悩みの板挟み 力不足のインバウンド
テック業界浮上せず 高成長神話陰りバブル崩壊、株価「二番底」も
米中の弱体化で混沌の時代へ ブレマー氏「日本の利上げは難題」
自動車:造れば売れる市場に景気後退の影 それでも進むEVシフト
電機:家電値上げで問われる付加価値 半導体は調整局面も投資堅調
ネット・通信:GAFAMは縮小均衡へ 楽天モバイルの正念場続く
小売り:値上げラッシュが個人消費に影 宅配サービスで陣取り合戦
外食・飲料:飲食店に優勝劣敗の荒波 一部は「協力金でふぬけに」
航空・鉄道・ホテル:脱コロナで回復も景気変調や人手不足に不安

 台湾有事のシナリオの中で最も激烈なのが、(6)人民解放軍を大規模投入して空と海から侵攻する台湾着上陸戦だ。中国共産党がうたう統一期限は2049年。そこまで視野に入れれば決して絵空事ではない。現実となれば沖縄県の与那国島が戦域に入る恐れがある。日本としては何としても避けたい事態だ。

中国が人民解放軍を大規模投入して台湾侵攻の意思を示すと、日本にとって深刻な事態となる(2017年、内モンゴル自治州で撮影された人民解放軍の兵士)(写真:新華社/アフロ)
中国が人民解放軍を大規模投入して台湾侵攻の意思を示すと、日本にとって深刻な事態となる(2017年、内モンゴル自治州で撮影された人民解放軍の兵士)(写真:新華社/アフロ)

人民解放軍100万人を投入

 ここからは中国が着上陸戦の準備を進め、米国がそれを抑止すべく米軍を大規模事前展開するシナリオを紹介する。海上自衛隊で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏が憂慮する事態だ。武力紛争に至らずとも日本が大きな打撃を被る恐れがある。

 同氏は米中が動員する戦力を次のように推定する。

 まず投入される人民解放軍は100万人規模とみる。日本の防衛白書によると台湾の陸上兵力は海兵隊を含めて約11万人。約250隻の艦艇と約520機の作戦機を持つ。一般に、攻める側は守る側の数倍の戦力を要する。例えば1945年の沖縄戦では約6万人(正規兵のみ)の日本軍に対し米軍は約53万人を投入した。現代戦はさらに大きな兵力を要するだろう。

 この人民解放軍を抑止するのに必要な米軍の規模を示したのが下の図だ。在日米軍に加え、上部組織のインド太平洋軍も展開する。

 抑止というと長射程のミサイルを導入することばかりが話題となるが、危機がエスカレートすれば、これだけ大規模な軍隊が抜き身の状態で対峙する。決して甘いものではない。

(写真=左上:YONHAP NEWS/アフロ、右上:Yonhap/アフロ、左下・右下:ロイター)
(写真=左上:YONHAP NEWS/アフロ、右上:Yonhap/アフロ、左下・右下:ロイター)
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中国国防動員法の脅威

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