インドで4割強と高い市場シェアを誇るスズキの現地子会社マルチ・スズキ・インディア。その系列販売店を訪れた筆者を迎えてくれたのは、英語で書かれた「お客様は神様」という標語と、店頭に並んだ「神様フィギュア」だった。

 マルチ・スズキはインドで年間164万台(2022年度=22年4月~23年3月)の新車を売っている。インド国内に構える販売・サービス網は新車を扱う店舗が約3600カ所、認定中古車店が約550カ所、サービス工場は約4500カ所(いずれも23年3月末)に上る。

 日本のスズキが約1300店だから、インドの方が店の数は多い。しかし、インドの広さと人口を考えると、この数でも少ない。販売店、サービス工場は今後も増えていくだろう。

 私が取材に行ったのは首都ニューデリーがあるデリー準州と、5つの州に計42の店舗を持つ販売会社「プレム・モーターズ」だ。足を運んだのはデリーから1時間程度の距離にあるグルガオン店である。プレム・モーターズは年間に約3万6000台の新車を売っていて、マルチ系の販売会社としてはトップ5に入る。

 案内してくれたマルチの笠原和人と竹下毅。ふたりは現地販売店についての概要を教えてくれた。

 竹下は言った。

 「現在、マルチには3つの新車販売チャネルがあります。まずインド進出当初から続く『アリーナ』です。15年からは『ネクサ』も始めました。ネクサはプレミアムなチャネルで、上級車種を扱っています。加えて『スーパーキャリイ』という商用車を売るチャネルを16年から始めました」

プレム・モーターズが営む「ネクサ店」。マルチのラインアップのうち上級車種を取り扱っている
プレム・モーターズが営む「ネクサ店」。マルチのラインアップのうち上級車種を取り扱っている

牛から最新EVまでが共存

 もう一つあるのが認定中古車店のチャネルだ。これも竹下が説明してくれた。

 「中古車の状況は日本とはちょっと違います。マルチの認定中古車店のように整備された中古車販売店がある一方で、個人間の売買など、それ以外の場所で取引されるケースも多いです。バイクからクルマに移行するお客様の中には予算の関係からまずは中古車に乗るという選択をする人も多く、中古車ビジネスはこれからも発展していくでしょう」

 さて、グルガオンにあるプレム・モーターズへ向かいながら、私は車内でインドの道路やクルマ事情について話を聞いた。

 インド人の運転は荒い。割り込みはするし、クラクションも鳴らす。ただ、クラクションを鳴らさないと危険ということもある。クルマの前にオートバイや荷車や自転車が突如として割り込んでくるからだ。そんな混沌の中を走っていると、これまた突如として牛が出てきたりする。神聖な動物だから、道路の牛にはクラクションを鳴らさない。

 インドの道を日本人が運転することは簡単ではない。笠原も竹下も「自分でハンドル握ることはありません」と言っていた。

 笠原が続けた。

 「インドでは年間に約15万人が交通事故で死亡しているそうです。日本だと今は3000人もいかないぐらいじゃないかな(警察庁の統計によると22年は2610人)。インドの人口が日本の10倍以上だということを考えても多いです。マルチはCSR(企業の社会的責任)活動を通じて交通安全の啓蒙活動にも取り組んでいます」

 インドの人たちの運転の仕方を見ていると、さもありなんと思えてくる。ただ、走っているクルマはボロボロではない。きれいにメンテナンスされた新車が多数派だ。

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