国内最大手のフリマアプリを運営するメルカリ。企業としての革新性を保持するため、多様な価値観とグローバル化が不可欠だ。それを実現するために、同社はどのような人事施策を講じているのだろうか。人事部門を担当する木下達夫執行役員CHRO(最高人事責任者)に話を聞いた。

木下達夫(きのした・たつお)氏
木下達夫(きのした・たつお)氏
P&Gジャパンに入社し採用・HRBP(HRビジネスパートナー)を経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト、HRBP、07年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者。12年GEジャパン人事部長。15年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。18年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。(写真:竹井俊晴)

メルカリは2013年の創業からかなりの速度で事業を拡大してきました。急成長は時に硬直化を招きます。人事的側面でどのような変革を進めてきたのでしょうか。

メルカリ執行役員CHRO木下達夫氏(以下、木下氏):ミッションとバリューを重視してきました。創業からの会社としてのミッションとして「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」を掲げています。バリューは「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つです。これらは、市況が読みにくい近年において、非連続的な成長のためには不可欠です。

 特にバリューの「Go Bold」は社内でも積極的に伝えています。会社としても大胆な姿勢を持ち、例えばBtoC(消費者向け)ビジネス「メルカリShops(ショップス)」のスタートや「メルカード」といったクレジットカード事業への参入などに取り組んできました。だから、社内のメンバーにも大胆さを求めます。採用時には「過去の大胆な経験」について聞くようにしていますし、人材の評価基準においても「どれだけ大胆な挑戦ができたのか」を基準の一つにしています。

 バリュー「Be a Pro」に関しても重要視しており、プロとして自立自走し、責任を果たしていくことを求めています。中途採用が中心の会社のため、多くの社員がもともと高い専門性を持っていますが、さらに学び続ける姿勢を持つことを期待します。

規模の拡大と共に、当然ながらインフラストラクチャー(社会基盤)としての性格も帯びてきます。社会的インフラとして見ると、どうしても保守的になりませんか? どのように「Go Bold」を発揮する体制を整えているのでしょうか。

木下氏: 13年の設立初期はプロジェクト試行を短期で繰り返していました。今は、スケールがあるインフラとしての在り方を認識し、テストしてから仕様変更を行うなど、セキュリティーの面からも安全性を担保する社会的責任があります。

 保守性を打破して非連続的な成長を遂げるために、「Go Bold」に基づいた人事施策をいくつか講じています。例えば、評価報酬の運用方法。21年からの新しい人事評価制度では、成果評価のほか、特にバリューの発揮を重視した行動評価点を付けるような仕組みにしました。「Go Bold」、すなわち「大胆さを仕事で発揮しているかどうか」を評価の対象にし、報酬や評価にもメリハリを付けています。他には、早い段階での要職登用なども挙げられます。

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