ガンダムのヒントになった「パワードスーツ」
ハインラインが著したもう1冊の人気SFである『宇宙の戦士』についても、ガンダムに関連しそうな部分を簡単に紹介します。
物語は、地球連邦軍の機動歩兵部隊の兵士である主人公のジュアン・リコらが輸送艦から惑星に降下するところから始まります。緊張に震えながら、カプセルに入った機動歩兵たちが大気圏に次々に突入していく描写は圧巻です。米メリーランド州アナポリスにある海軍兵学校(士官学校)出身で、空母「レキシントン」に乗り組むなど軍隊経験のあるハインラインだからこそ描ける迫力あるシーンといえるでしょう。
機動歩兵たちが身につけているのは「パワードスーツ」と呼ばれるロボットスーツです。すぐれた視力と聴力、重い武器と弾薬を運べる能力、強い脚力、高い攻撃力、耐久力を兵士にもたらしてくれます。「機動歩兵はひとりで戦車隊と対峙し、支援なしでそれを絶滅させることができる」「このスーツを着ていると、ゴリラサイズの武器を装備した、でっかい金属製のゴリラにみえる」。ハインラインは本書でパワードスーツをこのように説明しています。
特徴的なのは、自分の体を動かすのと同じようにパワードスーツを制御できることです。走ったり、ジャンプしたりといった人間の動きを、パワードスーツがそのままアシストしてくれます。「こいつの設計で真に天才的なのは、歩兵がそれを制御する必要がないという点だ。服みたいに、皮膚みたいに、ただ着ればいい」とハインラインは本書で述べています。
このパワードスーツは人間拡張(Human Augmentation)的な技術といえるでしょう。米軍が2013年ごろから開発に取り組んできた「TALOS(Tactical Assault Light Operator Suit)」に近い印象もあります。TALOSは「パワード外骨格(Powered Exoskeleton)」とも呼ばれており、多数の研究機関や企業が参加して開発が進められてきましたが、2019年に当初想定されたコンセプトの実現は難しいことが明らかになりました。
宇宙の戦士で描かれたパワードスーツは、ガンダムのモビルスーツよりも、むしろアニメ『装甲騎兵ボトムズ』に登場する「アーマードトルーパー(AT)」と呼ばれるロボットに似ている印象があります。人間拡張という言葉からは『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する汎用人型決戦兵器のエヴァンゲリオン(EVA)をイメージするかもしれませんが、外観的にはボトムズやアニメ『太陽の牙ダグラム』に登場する「コンバットアーマー」と呼ばれるロボットが想起されます。
それでも宇宙の戦士は、機動戦士ガンダムの制作チームがモビルスーツのアイデアを生み出すヒントの1つになったようです。機動戦士ガンダムの作画監督だった安彦良和は、「友人の(編集部注:「スタジオぬえ」を主宰した)高千穂 遙から、ハインラインの書いたSF小説『宇宙の戦士』が面白いから読めと言われて。そこから得たパワードスーツのアイデアがあった」と2021年1月に文春オンラインに掲載された記事で述べています。
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