「コロニー落とし」ならぬ「岩石落とし」

 それが月から地球に穀物などの物資を送るという名目で建設した射出機です。月の重力は地球の6分の1しかないため、重い物体の打ち上げに適しています。月の独立派は射出機で穀物の代わりに岩石を発射して地球を攻撃。マイクは高度な軌道計算を実行して、地球上のターゲットをピンポイントで破壊していきます。核兵器の爆風並みのエネルギーが生じる岩石攻撃の破壊力に地球に住む人々はおののき、ついに月の独立を認める国家が現れるようになります。

 不毛で活気がないと思っていた月で多くの人が生活する世界を描いたことに、マスクは感銘を受けたそうです。マスクは火星を目指していますが、その前に月に行くことを計画しています。さらに超知能を持つコンピューターが“神”のような力を持つ世界は、AI(人工知能)に強い関心を持つマスクにとり、間違いなく刺激となったことでしょう。

 それでは月は無慈悲な夜の女王のどの部分がガンダムと似ているのでしょうか? 宇宙の植民地が地球に反旗を翻して独立しようとすることや、「コロニー落とし」のように巨大な岩石を地球に落下させて、核兵器並みの爆発エネルギーを生み出して、政治家や市民を震え上がらせる点が共通しているといえるでしょう。

 もう1つのポイントは主人公が「巻きこまれ系」であることです。マニー自身は一介のコンピューター技術者で強い政治思想を持っているわけではありません。しかし高性能コンピューターのマイクと親しくなったことをきっかけに、月の反政府勢力と付き合うようになり、いつの間にか独立運動に身を投じることになります。

アムロ・レイが操るモビルスーツ「RX-78-2」の18mの実物大モデルは江東区青海の「ダイバーシティ東京」前の広場に展示されていた (写真:ロイター)
アムロ・レイが操るモビルスーツ「RX-78-2」の18mの実物大モデルは江東区青海の「ダイバーシティ東京」前の広場に展示されていた (写真:ロイター)

 機動戦士ガンダムの主人公であるアムロ・レイも典型的な巻きこまれ系です。ジオン軍の攻撃を受けた際に偶然近くにあったモビルスーツのガンダムに乗り込み、ザク2機を撃破します。その後も『ガンダムSEED』の主人公キラ・ヤマトや、『ガンダムUC(ユニコーン)』の主人公バナージ・リンクスなどに、巻きこまれ系の系譜は続いていきます。コンピューターや機械などの技術に詳しかったり、工業系の学校に通っていたりする少年が、トラブルに遭遇して初めて乗ったガンダムをなぜか上手く操縦できるようなストーリーが定番の1つになっています。

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