21世紀になって再び脚光を浴びるランドの思想

 現代の人は信じられないかもしれませんが、当時はソ連や社会主義、共産主義が美化されることが多い時代でした。しかしランドは実体験に基づき、自由がない暴力的な世界の恐ろしさを批判的に描きました。

 ベストセラーを出し、小説家として名を高めたランドは「オブジェクティビズム(客観主義)」という独自の思想を打ち立てます。詳細は省きますが、「自分自身の幸福を人生の目的として、生産的な成果を最も崇高な活動として、そして理性を唯一の絶対的なものとする英雄的な存在としての人間」を理想とする思想です。個人の権利を最大限尊重する自由な資本主義が理想的な唯一の社会体制である、とランドは主張しました。

 ランドの思想は、21世紀になって再び脚光を浴びるようになります。革新的なテクノロジーを発明して世界を変えようとするテック企業のリーダーや、自由主義的な立場から資本主義を正当化したい保守派の政治家にランドの思想に共感する人が増えたからです。ドナルド・トランプが大統領だった時代は、政権幹部にランドの信奉者が多いとしばしば指摘されました。ランドの作品は、米国を中心に世界で3700万部以上売れるベストセラーになっています。米国の政治思想の潮流を理解するためには、ランドが書いた肩をすくめるアトラスを読むことは助けになります。

 もっともマスクは、ランドの思想をやや過激だと捉えている印象もあります。肩をすくめるアトラスは、「共産主義への対処法であり、それ自体は有用だが、優しさで和らげられるべきだ」とマスクは述べています。

=文中敬称略

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