私が読んだ本のヒーローたちは、常に世界を救う義務を感じていた

 まず読書です。暗黒だった青春時代にマスクは膨大な数の本を読みました。ジャンルはSFからファンタジー、歴史、経済学まで多岐にわたります。「1日10時間、本にかじりついていることも珍しくなかった」と弟のキンバルが語っていたほどで、異常なまでの読書欲を持っていました。

 例えば、SFではアイザック・アシモフの『ファウンデーション』シリーズやフランク・ハーバートの『デューン 砂の惑星』、ロバート・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』など、驚くほどたくさんの作品を読んでいます。少年時代に読んだSFがマスクの宇宙への興味をかきたてたといえるでしょう。

 ファンタジーではJ・R・R・トールキンの『指輪物語』を愛読していました。本作品は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズとして映画化され、21世紀になって改めて注目を浴びるようになりました。マスクがしばしば「世界を救いたい」と語る背景には、指輪物語のようなファンタジーの影響があります。「私が読んだ本のヒーローたちは、常に世界を救う義務を感じていた」。マスクはこう述べています。

 このほかにも歴史学の大著や経済学の古典、科学、戦争などマスクの愛読書は多岐にわたります。これらの本の詳細とマスクが関心を持った理由については、『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』で詳しく解説しています。

 マスクが少年時代に身につけたもう1つのスキルがプログラミングです。マスクは10歳のときに独学でプログラミングを始めて、12歳で『ブラスター』というシューティングゲームを開発し、パソコン誌に500ドルで買い取ってもらいました。

 プログラミングの経験は、1995年にマスクが起業したZip2というオンラインの都市ガイドサービスを提供するスタートアップでも役立ちます。地元企業の情報を掲載し、地図と経路情報も提供するサービスで、マスクはCTO(最高技術責任者)として、そのソフトウエアを自ら開発したそうです。

 次に起業したオンライン決済サービスのX.comでも、マスクはソフトウエア開発の初期段階において重要な役割を果たしました。同社は後に同業のコンフィニティと合併し、ペイパルに社名変更します。つまりプログラミングのスキルを持っていたことが、起業家としてマスクが成功する足がかりとなりました。

 テスラやスペースXではマスクは経営者としてかかわるようになり、技術者としてプログラミングすることはなくなったようです。それでもさまざまなテクノロジーに関心を持ち、根本的な原理まで理解したうえで、経営したいという欲求を持ち続けています。

 友達がほとんどいない孤独な少年だったからこそ、マスクは読書とプログラミングに没頭できたといえるでしょう。

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