天才たちに強い影響を与えた読書

 それでも世界が認める天才たちにどこまで迫れているのか、疑問が残ることが少なくありませんでした。例えば、マスクを取材した際に、「なぜ火星に行く宇宙ロケットを開発するのか」と質問したことがあります。返ってきた答えは、「人類の数千年にわたる歴史を考えると、文明が発展した時期がある一方で後退する時期もあった。再び同じことが起きないとは限らない。だからこそ来るべき危機に備えて、地球以外に人類が住める場所を確保する必要がある」。型破りなコメントに驚きましたが、なぜこのような発想をするのか、マスクの考え方の根っこの部分を理解できていないと感じて、心にひっかかりのようなものが残りました。

 後に知ったのはマスクが猛烈な読書家で、SFやファンタジー、歴史関連の書籍が大好きなことです。例えば、マスクが愛読しているSFにはアイザック・アシモフの『ファウンデーション』シリーズがあります。1万2000年続いた銀河帝国が衰退した後の宇宙を描いた壮大な作品で、時間軸は数百年単位と驚くほど長いのです。マスクは現実の歴史への関心も強く、エドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』やウィル・デューラントの『The Story of Civilization(文明の物語)』といった大著を愛読しています。このような読書経験が火星を目指すマスクの思考の根底にあります。

 べゾスも超がつく読書好きです。幼い頃から図書館に足しげく通い、膨大な数の本を読破してきました。今となっては忘れている人もいるかもしれませんが、そもそもべゾスは、アマゾンをリアルの書店と比べて品ぞろえが圧倒的に豊富な「インターネット書店」としてスタートさせました。

 べゾスの人生にも読書が大きな影響を与えています。例えば、アマゾンを創業する際に背中を押したべゾスの「後悔最小化フレームワーク」。80歳になって人生を振り返ったときに、後悔を最小化できるように生きようという考え方です。「挑戦して失敗しても後悔しないが、挑戦しなければずっと後悔しながら生きることになる」とべゾスが考えるようになったきっかけは、カズオ・イシグロの小説『日の名残り』を読んだことにあります。

 日の名残りは、第二次世界大戦前に大きな政治力を持っていた英国の名門貴族の執事だった人物が過去を振り返って思い悩む物語です。この執事のように年を取ってあれこれ後悔しないよう、「今やりたいことにチャレンジしよう」とべゾスは心に誓いました。ベゾスは経営に関する多くのアイデアを読書から得ており、アマゾンの幹部にもさまざまなお気に入りの本を読ませてきました。

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