世界を救いたいという義務感
「果たすべき役割がある」というベゾスの言葉は、マスクが語った世界を救う“義務”に近い印象があります。前述したようにベゾスも、地球が抱える問題を解決したいという強い思いを持っています。ちなみにアマゾンは、2017年に10億ドル(約1300億円)もの予算を使って指輪物語の5シーズン分のドラマを制作することを決めており、ベゾスが今でもトールキンに心酔していることがうかがえます。
ゲイツも少年時代にSFやファンタジーを愛読していましたが、世界を救いたいと強く思うようになったのは、ほかにも理由がありそうです。ゲイツには、かつて“悪の帝国”の総帥のようなイメージがありました。1990年代にマイクロソフトのパソコン用OS(基本ソフト)「ウィンドウズ」が圧倒的なシェアを獲得。マイクロソフトが独占的な地位を悪用して競争を阻害し、消費者に不利益を与えているとして、1998年に米司法省と米国の19州とワシントンDCから提訴されました。
そんな中でゲイツは2000年に財団を立ち上げ、次第に慈善活動にのめり込んでいきます。「世界一の大富豪であるものの、独占的な立場を利用して不公平な形でライバルを闇に葬り去る“悪役”」といった負のイメージは次第に変化していきました。世界の貧困や公衆衛生問題と熱心に戦う慈善家として称賛されることが、ゲイツにとって心地よくないはずがありません。さらにゲイツは何かを始めると徹底的に情報収集して問題を解決しようとする“パラノイア(偏執症)”タイプです。グローバルな慈善活動に、ゲイツは傾注するようになりました。
もう1つの重要なポイントが、「テクノロジーで世界を救うことができる」というマスク、ベゾス、ゲイツの信念です。自動車、宇宙開発、小売り、ソフトウエアの分野でイノベーションを起こして産業を激変させた3人は、解決できないと思われているような問題でも、技術革新によって乗り越えられると考えています。
強迫観念にとりつかれたかのような強い情熱を持つイノベーターは、ビジネスだけではなく、慈善事業にも驚くような熱意を持って取り組んでいます。前出のバチカンでのスピーチで、ベゾスはこうも述べていました。
「旺盛な好奇心を持ち、不可能を探求し、発明し、再定義しよう。人類の進歩におけるブレークスルーを見てほしい。半導体や再生可能エネルギーなどは全て、イノベーターが現状を受け入れることを拒否したために起きた。その道は決して平たんではなく、途中には多くの障害があったが、成功した。すでにある道をたどるのではなく、新しい道を自ら切り開く必要がある」
慈善活動の表彰式であっても、ベゾスの「世界を変えたい」という不屈の起業家魂が伝わってきます。不可能と思われていることに挑戦し、テクノロジーの力で世界を救いたいという天才たちの情熱はとどまるところを知りません。
=文中敬称略
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