「全ての生命の価値は等しい」

 ゲイツの慈善活動は広く知られているので、簡単に紹介します。2000年にビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立して「全ての生命の価値は等しい(All Lives Have Equal Value)」というスローガンを掲げ、結核やマラリアなどの感染症の予防、清潔な水の供給、農業の生産性向上などを熱心に支援し続けています。

 2020年時点でゲイツ財団は約500億ドル(約6兆5000億円)の資産を保有する世界で2番目に大きな慈善団体に成長しました。当初は金持ちの道楽のように思われ、冷ややかな視線にさらされることもありましたが、同財団での活動にゲイツは力を注ぎ、次第に高く評価されるようになりました。

 ゲイツも地球の気候変動を懸念しており、二酸化炭素など温暖化ガスの排出量をゼロにするためのロードマップも提示しています。『天才読書』で詳しく紹介しているように、ゲイツは膨大な数の本を読んでおり、多数の専門家とも対話した経験を生かして、『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』という本を2021年に出版しました。

 天才たちは、なぜ地球を救うことにここまで情熱を燃やすのでしょうか? もちろん3人とも世界一の富豪になったことがあるので「お金持ちなら当たり前なのではないか」と思う人もいるかもしれません。

 しかし世界的な富豪の多くが、マスクやベゾスやゲイツのような強い情熱を持って「世界を救いたい」と発言し、熱心に行動しているわけではありません。むしろ高価な美術品を買いあさったり、宮殿のような家を建てたり、家族に莫大な財産を分け与えたりすることを優先するケースが多い印象もあります。

 マスクとベゾスに共通するのは、少年時代の読書体験の影響です。多数のSFやファンタジーを読みあさったことは2人の人生に大きな影響を与えました。詳細は『天才読書』で紹介していますが、2人の愛読書は重なっており、例えば、ファンタジーではJ・R・R・トールキンの『指輪物語』があります。

 「私が読んだ本のヒーローたちは、常に世界を救う義務を感じていた」とマスクが述べているように、ファンタジーやSFの主人公には世界の救世主的な人物が目立ちます。ベゾスも少年時代に指輪物語から同じようなインスピレーションを得たようです。2022年8月に、アマゾンが配信するドラマシリーズ『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』のワールドプレミアに出席したベゾスはこう述べました。

 「祖父からトールキンの指輪物語を紹介されて、すぐに恋に落ちた。私は当時、13歳か14歳で、冒険に夢中になった。希望と楽観主義、誰もが果たすべき役割があるという考え方にほれ込んだ」。

次ページ 世界を救いたいという義務感