淡路島の野原で下した決断

佐藤会長は淡路島の何もない野原に椅子を置き、1人きりで5時間程思索したのちに出店を決めたという逸話があります。その時何を考えていたのでしょうか。

佐藤氏:その地に店をつくって本当に人が来るのか。それは神のみぞ知るところです。しかし「自分がまたその場所に行きたいと思うか」は明確に分かります。

 そこに行きたいと思う理由は人それぞれ違うはず。総合的なものなので1つのファクターで決めているのではないんです。きれいな海、素晴らしい夕日がある。近くに排ガスを出すような施設がなく、僕みたいな悪い連中がたむろしていない(笑)。

 椅子に座って、そういうものを全て含めて考えた時に「おいしいメニューを提供できる料理人がいて、快適に食事ができるスペースがあったら絶対にまたここに来たい」と僕は思ったんです。

「また来たいと思える場所」が見つかった時、まず何から着手するのでしょうか。

佐藤氏:僕らの本業は飲食ですから「食から始まる地方創再生」と打ち出している通り、街のコミュニティーのハブになるようなサイズのあるレストランから始めます。それすら成立しないのであれば、僕らにはその街を盛り上げる資格はないということです。

23年には島根県出雲市にレストランとホテル、ドライブインがオープンします。淡路島と同じ戦略を取るのでしょうか。

佐藤氏:ベースはレストランですが、自分が「その街にあったらいい」と思えるものをつくるので、場所によって異なります。4月のオープン後は、5ヘクタール(東京ドーム約1個分)ほどの土地に住居をつくる予定です。今想定しているのは20軒で、その周辺に居住者だけが使える公園や星空観察ができる「星空テラス」、共同で使用できるサウナ、農園などをつくります。既に何件か「住みたい」という声をいただいています。

地方創再生の先にあるもの

「グッドモーニングカフェ」や「ガーブ」など、一つひとつのレストランの認知度は高く、地方のエリア開発も成功させています。一方、「バルニバービ」という社名の認知度はそれほど高くない印象です。

佐藤氏:これまでは意図的にそうしていたところがありました。例えば1店舗のスタッフによる不祥事や、時折起こる食材関連の風評被害がグループ全体を毀損することを防ぐことができます。

 しかし、これからは「地方創再生」によって、飲食業だけでなく地方における新しい生き方そのものを提案していくことになります。淡路島や出雲などの大きなプロジェクトを進め、そこにジョインしたい人を求めるためにも、集合体としての「バルニバービ」の知名度の向上は必要だと思っています。

「地方創再生」を通して、これからどんなことを実現していくのでしょうか。

佐藤氏:やりたいのは、失われた地方のコミュニティーを取り戻すことです。

 例えば、子育てがしにくいことや、地方の暮らしが魅力的に感じられないのは地域のコミュニティーが失われたことに原因があるのではないでしょうか。

 僕らがレストランをつくることによって、生産者や取引先など人の動きが生まれ、お客さまが集まり、そこで働く人が住み始める。宿泊施設やパン屋やラーメン屋をつくったり、そういう街のエリア興しがコミュニティーの再生につながったりすると思っています。

 だから僕らは「地方創生」ではなく「地方創“再”生」と言っています。それを成し遂げていくことで、「日本ええやん」ともっと思えるようになるはずです。その第一人者であることを覚悟しています。

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