そういった飲食業の常識を覆し、収益性を高めたのが「バッドロケーション戦略」だったのでしょうか。
佐藤氏:1号店の「アマーク・ド・パラディ」からそうです。大阪の南船場は、かつては問屋街として栄えていたエリア。95年当時は「こんなところに人は来ない」と言われ、坪1万円で借りることができました。しかし、店が繁盛し人気のエリアになると1番高い店では坪3万円に賃料が値上がりしました。
「バッドロケーション」だった場所が、人気エリアになることで家賃が上がってしまう。
佐藤氏:それを避けるためにも、今、私たちは積極的に不動産を取得しています。例えば古いビルの建つ5億円の不動産があったとしたら、建物の価格はせいぜい5000万円程度。土地は減価しませんから会計上の償却はゼロです。家賃と減価償却で経費が20%掛かるところを、自社物件を持つことで4%に抑えられます。内装費に1億円かけたとしても、5000万円の物件で20年営業すれば、月に1000万円の売り上げで純利益を15%出すことができます。
20年営業した後、建物に価値が付かなくなっていたとしても、繁盛店があることで土地のバリューが倍になっていることもあります。
不動産の付加価値を上げる、飲食の力
不動産取得の重要性に気づいたきっかけは何だったのでしょうか。
佐藤氏:2004年の東京出店でした。東京タワーを見上げられる立地のビルがあったのですが、当時は「田舎者が行くところ」と言われ、集客は難しいとされていました。しかし、僕は「ここにレストランがあったら来たいなあ」と思った。レストランを出店したら3カ月後には大繁盛、ビルのテナントが次々埋まり、物件の価格が上がって「売却するから立ち退いてくれ」と言われました。必死で交渉してその後4年間は営業することができましたが、立ち退く際にはビルの価格はさらに10億円値上がりしていました。
この経験から、「不動産の付加価値はソフトが決める」ことを学びました。
その後、出店する際には不動産を取得するようになったのですね。
佐藤氏:11年に東京本社が入っていた蔵前のビルを数億円で購入しました。現在では想定で3倍以上の価格になっています。
不動産を取得し収益性を高め、さらに店を繁盛させることで付加価値を上げることができます。
同業他社のほとんどが不動産取得に動かない理由は何でしょう。
佐藤氏:銀行の融資を受けることが難しいからです。蔵前のビルを購入する際も、銀行の担当者から「飲食業は資産の流動性の高さが重要、数億円も固定費を抱えるべきではない」と言われて非常に苦労しました。
しかし、飲食業が頑張って店を盛り上げれば、間違いなく土地のバリューが上がります。淡路島でも、店がオープンする前に周辺の不動産をできる限り取得するよう指示しました。開店後はやはり土地の価格が上がっていきました。
飲食は不動産の付加価値を上げる力が強いのでしょうか。
佐藤氏:1、2位を争う強力なコンテンツだと思います。お客さまがその場所で過ごす時間は、物販よりもずっと長いですから。東京タワー近くの店ではランチを合わせて1日平均400人の来客があったので、年間10万人以上がそのビルを訪れていたことになる。すごい宣伝効果だと思います。
しかし、ほとんどの飲食業は土地のオーナーや不動産開発業者にうまく利用されているといわざるを得ません。人気店となり、不動産の付加価値が上がれば「売却するから」と立ち退かされる。退去の際は原状回復に何千万円と掛かることもあります。もっと多くの飲食業者に、この仕組みに気づいてほしいと思います。
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