全国254庫(2023年2月末時点)の信用金庫のセントラルバンクである信金中央金庫。信用金庫の経営の安定を図りながら、業界の情報共有や連携を促すハブとしてネットワークを構築している。信用金庫といえば街の個人商店や中小企業などの金融機関だが、全国の信用金庫の預金量の合計は約158兆円。国内1位のゆうちょ銀行(約193兆円)、2位の三菱UFJ銀行(約183兆円)に次ぐ規模だ(2022年3月時点)。
2018年に理事長に就任した柴田弘之氏は、創立70周年記念事業として2020年度から3年間を実施期間として「SCBふるさと応援団」を創設。地方公共団体の地方創生事業を対象に審査・寄付を行い、地域の課題解決を後押ししている。また昨年8月には中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)促進を全面的に支援するためNTT東日本・西日本と業務提携することを発表した。
信金中央金庫は地域活性化に取り組む中で、どのような地方の課題やビジネスチャンスを見いだしているのか。これからの時代に果たすべき役割について柴田氏に聞いた。
(聞き手は日経ビジネス電子版編集長、原隆)

信金中央金庫(以下、信金中金)は全国の信用金庫の中央金融機関に当たります。信金中金の役割について教えてください。
柴田弘之理事長(以下、柴田氏):信金中金は信用金庫を会員として、その出資で成り立っている金融機関です。
そもそも信用金庫は、地域で預金を集め、それを原資に地元の中小企業や個人に貸し出します。我々は、信用金庫の余裕資金を系統預金のような形でお預かりし、マーケットで運用して利益を還元する機能を持っています。
もう1つの役割が、信用金庫の業務補完の機能です。信用金庫単体では難しかったり非効率だったりする業務について、我々が代わりに取り組みます。
さらには信用金庫のセーフティーネットとしての機能があります。1つひとつの信用金庫の経営内容をモニタリングして経営相談に乗ります。必要によっては資金を注入し、信用金庫の経営の安定性を確保します。
信金中金は主にこれらの3つの機能を有しています。我々は信用金庫と違って営業エリアが限定されておらず、上場企業に対する融資や資金の運用に関しては銀行などの金融機関と同じです。地域の資金を、国内で有益に活用する仕組みと思っていただければと思います。
地域の金融機関といえば地方銀行があります。信用金庫との違いはどこなのでしょうか。
柴田氏:地銀は、仕事内容が全て地域に結びついているわけではありません。地域外でも営業されますし、東京に支店を置くこともあります。一方で、信用金庫は営業エリアの会員から出資金を集め、融資先も原則としてエリア内の個人や中小企業と決められています。事実上、本当に地域に密着しているのが信用金庫なんです。
以前、話題になったテレビドラマ『半沢直樹』では、主人公の父親が銀行に融資を切られ、絶望するところから物語が始まります。取引先との関わり方は銀行と信用金庫では異なるのでしょうか。
柴田氏:銀行は株式会社ですから利益を出さなければなりません。しかし、信用金庫は地域の課題解決をするのが使命なので、最初からステークホルダーなんです。融資先がもうかっていないからといって逃げも隠れもしません。同じ地元の人間としての信頼関係の上で「相談事があったら何でも言ってください」という姿勢で仕事をしています。半沢直樹のお父さんは「信用金庫に相談を寄せてくださったらよかったのに」と思いますね。
柴田理事長は、なぜ信金中金に入られたんですか?
柴田氏:最初に金融に興味を持ったきっかけは、実家の隣が銀行だったことです(笑)。夜になっても銀行の窓から明かりが消えない日があり、母に尋ねたら「銀行は1円でも勘定が合わないと帰れないんだよ」と言われて衝撃を受けました。
就職は地元の金融機関を考えていたのですが、父の友人に「信金中金は信用金庫の日銀的な機能を果たしているから面白いよ」と聞いたんです。「一生の活動範囲が地元に限られてしまっていいのだろうか」と思っていたところだったので、全国規模の仕事ができることに魅力を覚えました。入社してからは、コンサルタントとして全国を転勤し、3カ月ごとにビジネスホテルを拠点に各地方の信用金庫を担当しました。その度に地域の多様性に触れ、素晴らしい経験をさせていただいたと思います。
なんとなく、地銀に入る人は地元のエリートのイメージがあります。信金中金に入る人はどんな人が多いのでしょうか?
柴田氏:非常に真面目な人が多いと思います。人材の多様性を意識して、採用方針として東京の大学だけではなく地方大学出身者をバランスよく採るようにしています。
Powered by リゾーム?