信金中金の職員が自分の地元に帰りたくなったら、地場の信用金庫に入ることはできるのですか?

柴田氏:これまでもそのような事例はあります。それ以外にも、仕事で関わった地方の信用金庫の職員さんに気に入られて、「ぜひうちにきてください」とお誘いをいただく人もいます。まさに信金中金冥利に尽きることだと思います。

若い世代では、地域の課題について真摯に考えている人が増えていますよね。

柴田氏:地域貢献のために信金中金に入ってくださるのは非常に理にかなっていると思います。今はただ働くだけではなく、自分の所属する組織がいかに社会貢献できるか、企業活動に誇りを持てるかが重要視されています。その意味でも理想的ではないでしょうか。

中小企業のDX、脱炭素化が急務

地方では、個人商店が姿を消し続けています。しかし、日本が成熟した豊かさを目指すためにはこうした個人商店が残り続ける多様性が必要ではないでしょうか。

柴田氏:信用金庫はその使命と背景から、まさに多様性を担う存在だと思います。地方はそれぞれ産業構造や歴史、風土、文化が全く違い、本来多様なものです。しかし、地方の中でも差が広がっています。人や仕事が集中する拠点以外は経済が停滞したり地域の担い手が減少したりしています。もう少し多様性を確保しながら、各地がバランスよく成長しなければ我が国は良くならないと思います。

企業版ふるさと納税の仕組みなどを活用した地域創生推進スキーム「SCBふるさと応援団」は地域創生の観点から見ても面白い取り組みですね。

柴田氏:信金中金の創立70周年記念事業として2020年から始めました。企業版ふるさと納税の仕組みを活用しています。全国の地方公共団体の地域活性化の施策を信用金庫が選抜し、我々が審査をして上限1000万円で寄付をしています。その上で我々が連携して地域事業をサポートします。2022年度は50事業を承認し、合計4億9000万円を寄付しました。実施期間は2022年度までですが、地域社会の発展に貢献する実績ができたと思います。

全国で共通している地域の課題についてはどう見ていますか。

柴田氏:現在においては「DX」と「脱炭素化」でしょう。これらを具体的にどう進めるかが課題です。

 DXは、中小企業の生産性の向上に必要不可欠です。しかし、インボイス制度の導入や、電子帳簿保存法に伴う電子取引への対応は、経営体力に余裕のない中小企業や街の個人商店には非常に大変です。その点は日ごろから信頼関係のある信用金庫が具体的なお手伝いをするのに最も適していると思っています。

 具体的には、DXの入り口として法人向けポータルサービス「ケイエール」の提供を開始しました。インボイス制度や電子帳簿保存法に対応しており、中小企業経営に有益な機能が一括で使えるようになります。

信金中金に中小企業を支援できるIT人材が豊富にいるのでしょうか。

柴田氏:ITに詳しい人材ばかりではないので、2022年にNTT東日本、NTT西日本と業務提携しました。彼らのノウハウや人材のサポートをお借りしながらDXを普及させていきます。

「絵本『スイミー』のように、それぞれが独立した存在でありながら皆でまとまって魚影を組むこともできるようにしていきたい」と語る信金中央金庫の柴田弘之理事長(写真=的野弘路)
「絵本『スイミー』のように、それぞれが独立した存在でありながら皆でまとまって魚影を組むこともできるようにしていきたい」と語る信金中央金庫の柴田弘之理事長(写真=的野弘路)

中小企業は、DXや脱炭素への取り組みに対して積極的ですか?

柴田氏:場合によって差がありますが、脱炭素に関しては「そんなことをやる余裕はない」というのが本音だと思います。しかし、自動車産業が集積する地域の信用金庫は、お取引先がサプライチェーンに組み込まれているため、脱炭素を進めるよう要求されます。脱炭素に取り組まなければ、サプライチェーンから弾き出されることを想定しなければなりません。だからこそ真剣に取り組めるよう体制を敷いています。

地域の担い手が減少していることに対して、これからどのような対策が考えられますか?

柴田氏:外部機構と連携し、地方における海外人材の活用支援の仕組みづくりを進めています。新型コロナウイルス禍の影響で海外との人材交流が難しくなりましたが、足元では少しずつ再開しています。これからは、医療や介護の分野で特に有効だと思います。

事業承継についてはいかがですか?

柴田氏:コロナ禍で事業をたたむ人が相当出てきており、地方では経営が芳しくなく後継者がいない方が多くいます。我々の子会社の、中小企業に特化してM&A(合併・買収)や事業承継を行う信金キャピタルが全国に8事務所を持ち、各地の事業承継やM&Aのニーズにお応えしています。

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