今年4月12日に創立60周年を迎える円谷プロダクション。創業者の円谷英二氏は「特撮の神様」と呼ばれ、「ウルトラマン」などの伝説的な作品を生み出してきた。円谷プロは、その長い歴史の中で、経営が危ぶまれた時期もあった。だが、ウルトラマンシリーズは60年近く新たなファンを獲得し続けており、海外での人気も高い。特に中国で人気が加熱している。2022年5月に公開された映画「シン・ウルトラマン」は興行収入約44億円と成功を収め、同年11月からはAmazonプライム・ビデオでの配信を開始。新たなファン層の開拓を続けている。
17年に社長に就任し現在は会長兼CEO(最高経営責任者)である塚越隆行氏は、16年までウォルトディズニー・スタジオ・ジャパンでシニア・ヴァイス・プレジデント兼ゼネラル・マネージャーを務めた。「円谷をディズニーのような会社にしたい」とオファーを受けたという塚越氏は、どのような展望を描くのか。映像メディアが多様化する時代での戦略などについて聞いた。
(聞き手は日経ビジネス電子版編集長、原隆)

塚越会長が、ディズニーや円谷作品など、エンターテインメントの世界に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
塚越隆行会長(以下、塚越氏):学生時代から映画や舞台が好きでエンターテインメントの世界に関心を持っていました。制作をやりたくて、大学卒業後は広告代理店にコピーライターとして就職しました。広告代理店でマーケティングや営業を一通り経験させていただいた頃、現ウォルト・ディズニー・ジャパンの募集を知って応募したんです。入社後はビデオのリテール営業から始めました。
そこから26年間勤め上げエグゼクティブ・プロデューサーに就任されていたディズニーから、円谷プロダクションの社長という新たな挑戦に踏み出したのはなぜだったのでしょうか。
塚越氏:ディズニー時代にスタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫さんと仕事をする機会があり、そのご紹介でコピーライターの糸井重里さんに出会いました。その後、糸井さんに色々とご紹介いただく中で、円谷プロダクションとご縁を持つに至りました。当時、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンの責任者をしていた私に、「円谷プロをディズニーのような会社にしたい」と声をかけていただいたんです。
当時、円谷プロに対してどんな印象を持ちましたか?
塚越氏:円谷プロとディズニーには共通点があると思いました。ディズニーは1つの作品を舞台や商品、パークなどに展開する「フランチャイズ」という手法を得意としています。作品の世界観を広げることでお客様に楽しんでいただくスペシャリストです。一方で、ワーナー・ブラザース・エンターテインメントさんは映画単品で勝負をするのが強みであり、制約でもあると思います。
その視点から、私は円谷プロがウルトラマンなどの作品で舞台イベントや商品に展開し続けてこられたことは、ディズニーの手法に類似性があると思いました。
その上で、さらにお客様に楽しんでいただくための方法があるのではないか、それを長年ディズニーで働いた経験を生かして後押しすることができるのではないかと、円谷プロに来たときに感じました。
「ウルトラマン訴訟」の決着
とはいえ、17年に社長に就任された頃、円谷プロは訴訟の真っただ中でしたよね。
塚越氏:まず大きかったのが「ウルトラマンシリーズ」の海外利用権に関する訴訟問題です。この先グローバル展開をする上でネックになると思いました。
この問題は、1996年にタイの実業家が「『ウルトラマン』シリーズ初期の6作品について、日本以外の全世界でのキャラクター使用権を円谷プロから譲渡された」と主張をしたことに端を発します。その前年に亡くなられていた3代目社長が署名したという契約書が本物か偽物かが裁判の争点でした。
それからタイ、米国、中国などで20年以上訴訟が続きました。幸いなことに2018年に米カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所の裁判で勝訴することができました。それをもって、やっと海外展開に向けて走り出す環境が整いました。
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