フリマアプリ最大手のメルカリは、2023年2月に創業10周年を迎えた。22年6月期下半期(22年1月~6月)の売上高は758億5800万円(前年同期比31%増)と過去最高を更新。昨年10月には月間利用者数が2075万人を突破した。フリマアプリで不用品を売買することは今や人々の日常の一部になっている。

21年10月にはスマホ1台でネットショップを開設できるEC(電子商取引)プラットフォーム「メルカリShops(ショップス)」の提供を開始。23年春をめどにメルカリでの売上金などを使った暗号資産(仮想通貨)のビットコイン取引機能の提供を始めるなど、新たな事業の展開も見せている。

創業者であり、代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の山田進太郎氏は「世界で使われるインターネットサービスを創る」ことを目指してきた。スタートアップから日本でほぼ唯一のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)となり、18年には東証マザーズ(現東証グロース市場)上場を果たしている。山田氏がこの10年で得たもの、次の10年に成し遂げたい展望について聞いた。

(聞き手は日経ビジネス電子版編集長、原隆)

山田 進太郎(やまだ・しんたろう)
山田 進太郎(やまだ・しんたろう)
1977年生まれ、愛知県出身。早稲田大学在学時に楽天(現楽天グループ)でインターンとして楽天オークションの立ち上げに携わる。 卒業後、ウノウを設立し「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などを立ち上げる。2010年にウノウを米Zynga(ジンガ)に売却、2012年にZynga Japanを退社。世界一周の旅を経て、2013年2月にコウゾウ(現メルカリ)を設立、代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任。2017年、代表取締役会長兼CEOに就任。2019年9月、代表取締役社長兼CEOに復帰、以降現職。(写真=的野 弘路)

メルカリは創業から10周年を迎えました。次の10年をどう考えていますか?

山田進太郎社長(以下、山田氏):我々のミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」と定めていますが、この達成はもちろんのこと、10年というフレームで考えたときに私の中でホットなのが、自分がいなくなった後も会社が永続的に発展する仕組みづくりです。現在、私は45歳ですが、10年後に「メルカリ」が循環型社会やグローバルなサービスを実現したときに、CEOとして私よりもベストな人が出てくる気がするんです。社会的に尊敬を集める企業は、創業者がいなくなっても理念やミッションが必然的に拡張していきます。そういう会社にすることが中長期的には重要だと思っています。

 どこか1社をベンチマークしているということではなく、様々な会社を見ながら試行錯誤を繰り返している段階です。ただ、米国企業は取締役会の議長や会長の権限が厳格に決められており、フレームがしっかりしています。

 国内に目を向ければ、ソニーグループやリクルートホールディングスなどの大企業は、社員が若いときから経営を経験させたり、エンジニアに販売の経験をさせたりするなど、キャリアパスの形成がよく考えられています。また、ソニーグループであればソニーネットワークコミュニケーションズ(SNC)、リクルートホールディングスであれば米インディードといったグループ会社で、果敢にリスクを取りに行き、実績を上げた人を登用しています。これらの仕組みは非常に参考になります。互選だと人柄の良い人が選ばれますが、事業ができるのかと言われれば疑問が残ります。

 メルカリで何年か働くと、当然、他社からの誘いもあるし、起業したいという人も出てきます。気がつけばどんどん凡庸な組織になってしまう危険性があります。それを避けるためにも、本当に優秀な人に経験を積んでもらい、さらに強くなってもらうことを繰り返すしかない。実績を出す人が自然に選抜される仕組みを意識的につくらなければなりません。

山田社長はどのような人を優秀と思いますか?

山田氏:我々の事業はテクノロジーの様々な方向性を深く理解していないと見誤ってしまいます。そのため、テクノロジーに対する知見が深いことが1つ。もう1つは、それをコアにして「こういうものをつくったらすごく便利なんじゃないか」と価値に変換できる発想力だと思います。ただ、最も重要なのは結果を出すこと。大きなチャレンジをしないと大きな成果は出ないので、うちのバリューである「GO BOLD(大胆に)」を重視しています。

 経営者は自分と似た人を評価しがちです。しかし、次のバトンを渡す上で、まずはそれを取り払っておきたいと思います。自分とは全然異なるタイプだとしても、会社のバリューに合って結果を出している人を選抜したい。なぜなら、自分に似ている人だと「自分と違ってここができていない」「自分だったらこうするのに」と比べてしまうからです。

 私は自身のことを「なんちゃってエンジニア」だと思っているので、例えば私よりも圧倒的にエンジニアリングに詳しい人や、すごくグローバルな考え方の人の方がいいのではないかという気もします。

もし後任がうまくいっていないと思ったら復帰しますか?

山田氏:私は戻らないと思います。中には復帰する経営者がいてもいいと思いますが、私がやりたいのは自分が死んだ後も会社が発展する仕組みづくりなんです。

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