岸田文雄首相は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、スタートアップ関連の補正予算案約1兆円を計上した。22年11月には「スタートアップ育成5か年計画」を発表し、5年間でスタートアップへの投資額を現在の8000億円から10倍超の10兆円、スタートアップ10万社、ユニコーン(企業価値10億ドルを超える未上場企業)100社を創出するという数値目標を掲げている。

日本のスタートアップ・エコシステムは海外に大きく後れをとっている。ユニコーン企業数を見ると、米国539社、中国174社、インド64社、日本10社(2022年3月時点)と、その差は歴然だ。米国ではユニコーンから米ウーバー・テクノロジーズや米エアビーアンドビーなどのデカコーン(企業価値100億ドルを超える未上場企業)が生まれ、経済成長の一翼を担っている。

「スタートアップ育成5か年計画の提言」の策定に取り組んできた一人が小林史明衆院議員。元デジタル副大臣として、デジタルトランスフォーメーション(DX)、規制改革、行政改革において実績を持つ。スタートアップ政策ではデジタル臨時行政調査会(臨調)における規制改革を同時に進め、新しい挑戦をしやすい社会構造の実現を目指す。スタートアップ育成政策は長期低迷する日本経済の成長のトリガーとなるのか、小林議員に話を聞いた。

(聞き手は日経ビジネス電子版編集長、原隆)

小林史明(こばやし・ふみあき)
小林史明(こばやし・ふみあき)
1983年生まれ。広島県福山市出身。上智大学理工学部化学科卒業。2012年初当選。衆院議員(広島7区)自由民主党 副幹事長。政治家以前はNTTドコモに勤務し、法人営業、人事採用担当を務める。「テクノロジーの社会実装で、多様でフェアな社会を実現する」を政治信条とし、規制改革に注力する。(写真=的野 弘路)

自民党政権として初めて「スタートアップ育成」を主要政策に位置付けたのはなぜでしょうか。

小林史明衆院議員(以下、小林氏):岸田政権は「新しい資本主義」の実現を目指しています。そのコンセプトの1つが複雑化する社会課題の解決と経済成長の両立です。社会課題の解決策を提案することで新たなビジネスを生み出すスタートアップは、その両方を実現する鍵だと考えているからです。

これまでも新興企業を支援する政策はいくつかありました。現政権のスタートアップ政策は従来と何が違うのでしょうか。

小林氏:これまでは「スタートアップは企業だから経産省」、「ベンチャーキャピタル(VC)は金融だから金融庁」とそれぞれの省庁が担当していることから、省庁と省庁の間に落ちる形で見過ごされてきた制度がありました。「スタートアップ育成5か年計画」では、省庁ごとの担当分野を超えて横断的に改正していくことが一番のポイントです。

 中でも重要なのが税制改正です。例えば投資家が株式を売却してスタートアップに再投資する場合、米国ではQSBS(Qualified Small Business Stock)制度があるため非課税なのです。しかし日本の場合は20%の金融所得税が掛かります。今後は日本でも非課税にすることで、成功した投資家のお金をしっかり投資に回していきます。

 もう1つのポイントがストックオプションです。スタートアップが規模を拡大する際に、人材を獲得する際にとられる手段です。しかし日本では使いづらい状態にあり、法制度による規制があるため、これから改革していきます。

米国では社員がストックオプションを保持したまま次のスタートアップへ移ることができます。日本でも実現するのでしょうか。

小林氏:早期に実現したいです。米国ではストックオプションを持ち運ぶことができますが期限があります。そのためストックオプションの権利を行使して未上場株として持ち運んだり、セカンダリーマーケットで未上場株を売却して現金化したりしています。一方、日本では未上場企業のストックオプションの権利行使は個人にも企業にも負担が大きく困難になっているため、それを可能にしていきます。あわせてセカンダリーマーケットも整備します。

「スタートアップ育成」について、自分たちの暮らしにどう関係があるのかピンとこない人もいると思います。国民にどう理解を求めるのでしょうか。

小林:一見すると一部の人たちに向けた政策のように感じるかもしれません。しかし、私はもう少し大きいパッケージで捉えています。「スタートアップ育成5か年計画」「リスキリング(新たなスキルの学び直し)、人への投資1兆円、労働移動の円滑化」「デジタル臨調による横断的な規制改革」、この3つを合わせることで社会全体の構造を変えるということなんです。

 それによって新しい挑戦がしやすくなり、スタートアップが生まれ、大企業との連携が増え、成長産業が増えます。例えば昨年、熊本県に半導体の世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)が工場建設を開始したことで人材の争奪戦が起こり、周辺の賃金相場が一気に引き上げられました。人材の獲得競争が起こることで賃金が上がり、個人消費が増え、地域の商店までもうかるようになる。この流れができると思っているんです。

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