Web3のムーブメントの背景には、少数のデジタルプラットフォーマーがデータを独占する世界を変えたいとの問題意識がある。だが、そのための技術や方法論はなお途上で、制度も追いついていない。暗号資産(仮想通貨)やDAO(分散型自律組織)の法制度に詳しい森・濱田松本法律事務所の増島雅和パートナー弁護士に、現状について聞いた。

森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士(写真=北島宏一、以下同)
森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士(写真=北島宏一、以下同)
増島雅和(ますじま・まさかず)
森・浜田松本法律事務所 パートナー弁護士
2000年東京大学法学部卒業。01年森・濱田松本法律事務所入所。06年米コロンビア大学ロースクールを修了し、シリコンバレーのウィルソン・ソンシーニ法律事務所で勤務。10~12年には金融庁に出向し課長補佐を務めた経験を持つ。一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会の顧問や、一般社団法人日本ブロックチェーン協会のリーガルアドバイザーを務める。

企業法務の専門家として、Web3のムーブメントをどう捉えていますか。

増島氏:まずは「Web3とは何か」が多義的です。Web3といっても、様々な立場の人がそれぞれの問題意識のもとでWeb3を語るので、ごちゃまぜにして議論すると全体像が見えにくいのです。

 構造として、(GAFAMなど米IT大手の)いわゆるデジタルプラットフォーマーについて「データが独占されている」との問題意識はみんなが共有しています。独占状況を脱するため「データを囲い込まないブロックチェーン(分散型台帳)のような仕組みを使ったモデルを作る必要がある」ということも共有されているでしょう。

 分岐するのはここからです。

 例えばDAOではトークン(電子証票)の発行が前提ですが、ブロックチェーンをベースにしつつ、トークンを使わないエコシステムを「Web3」として構想する人たちがいます。日本の「Trusted Web」や、おそらく(ツイッター創業者の)ジャック・ドーシー氏らが言う「Web5」もその流派ですし、(イーサリアムの共同創始者の)ギャビン・ウッド氏の「Web3」もそうでしょう。

 これに対してトークンを中心に考えるのは、(米大手ベンチャーキャピタル(VC)アンドリーセン・ホロウィッツの暗号資産部門の幹部)クリス・ディクソン氏らです。キャピタリストや、実装重視の人たちは「インセンティブがないとビジネスとしてドライブしない」と考えるため、報酬として使えるトークンを「Web3に不可欠な要素」とします。

国内ではどうなっていますか。

増島氏:デジタル庁を含め、経緯をよくご存じの技術者の方々は「Web3は本来トークンとは別であるべきで、政策もそうあるべきだ」と考えるようです。他方、政治家で「Web3を今後の日本の産業発展の糧にする」との思いが強い方々は、やはりトークンが必要だと考えています。