ウィキリークス創設者、ジュリアン・アサンジ氏の弟が、米国政府から起訴されている兄の解放を目指している。世界最強の軍事大国、米国と対峙(たいじ)するために手にした武器は「ブロックチェーン」だ。ブロックチェーンを基盤にした次世代のインターネットに移行すれば、国家の管理から逃れられると信じる者が増えている。彼らは自分たちの理想郷を「Web3」と呼ぶ。夢追い人たちの挑戦に迫る。

 2007年7月12日の朝、イラクの首都バグダッドで展開していた米軍の歩兵部隊が、敵対勢力から小火器やロケットランチャーで攻撃を受けていた。援護を要請された米軍の攻撃型ヘリコプター「アパッチ」が間もなく現場に飛来。

 「あそこにロケットランチャーを持ったやつがいるぞ」。乗員は興奮しながら、地上にいる一団に機関砲を浴びせた。

イラクの首都バグダッド郊外の上空を飛行する米軍の攻撃型ヘリコプター「アパッチ」(写真:U.S. Army/ロイター/アフロ)
イラクの首都バグダッド郊外の上空を飛行する米軍の攻撃型ヘリコプター「アパッチ」(写真:U.S. Army/ロイター/アフロ)

 ところがロケットランチャーと思われた物体は、実はロイター通信の記者が手にしていた望遠レンズ付きカメラだった。そうとは気づかずに、アパッチの乗員はその後も執拗に機関砲を撃ち込み、記者を含む多数の民間人を殺傷した。

 それから15年──。内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者、ジュリアン・アサンジ氏は現在、英ロンドンの刑務所に収監されている。バグダッドでの米軍ヘリによる誤射をはじめ、米国政府にとって不都合な真実が記録された多数の国家機密を暴露した罪で、アサンジ氏は米司法省から起訴されている。目下の焦点は、英国政府が米国側に身柄を引き渡すかどうかだ。

法廷に向かう護送車の中から健在をアピールするウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジ氏(写真:AFP/アフロ)
法廷に向かう護送車の中から健在をアピールするウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジ氏(写真:AFP/アフロ)

 アサンジ氏の異母弟に当たるガブリエル・シプトン氏が今回、本誌の取材に応じた。アサンジ氏より11歳下のシプトン氏は、「兄ジュリアンの自由を求めて闘い続ける」と固い決意を口にする。シプトン氏が「世界最強の軍事力を持つ国家」と評する米国と闘うために手にする武器は、次世代インターネット「Web3」の中核技術である「ブロックチェーン」だ。

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