女性の理系人材不足が深刻だ。開発現場に女性が少ないと、AI(人工知能)のアルゴリズム(計算手法)に偏りが生じたり男性基準の商品設計になってしまったりするなど、支障をきたすため、世界的に問題視されている。しかし、そもそも学生時代に理系を選択する女性が少なく、人材の母数が少ない。採用したくても、物理的に急増させることができない――。将来への必要な投資の一つとして、理系女性の増加支援・促進に取り組む企業が増えている。
女性の理系人材が少ないことが問題視されている。DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増え、性別を問わず、理系人材は慢性的に不足している。パーソルキャリアの転職サービスdoda(デューダ)によると、2022年9月の求人倍率は「エンジニア(IT・通信)」が10.07倍と最も高く、全体の2.11倍を大きく上回った。多様性の観点からはもちろん、人材不足を解決する一つの策としても、理系女性の増加支援・促進は欠かせない。

開発の現場の多様性が乏しいことで、数年前から既に問題は生じている。代表的なのはAIのアルゴリズムの偏り。AIの人事採用システムが男性を優先して採用する、顔認証システムが男性より女性、白人より黒人で認証精度が低くなるなどの傾向が指摘されている。
また、物理的な課題もある。キーボードやマウスなどは、指や爪の長さ、手の大きさの違いなどを考慮しなければならない。さらに、「VR(仮想現実)酔い」などを含む「サイバーシックネス(Cybersickness)」は女性の方が起こりやすいと指摘する研究結果もあり、性差を考慮した商品開発が求められている。
レノボとワッフルが出張授業
パソコンやタブレットなどを手掛ける中国レノボ・グループ傘下のレノボ・ジャパン(東京・千代田)でも女性人材の確保には苦戦している。同社は22年度中に女性労働者の割合を18%にすることを目標に掲げている。女性技術者の割合は公表していないが、コンシューマ事業本部営業戦略部の柳沼綾本部長は「かなり少ないと思う」と認める。
同社では、製品開発チームに女性がいない時期があったという。男性基準で製品を作ると、女性には大きすぎて使いにくいなど問題が生じることがある。対処方法として、社内でボランティアとして募った別部署の女性社員からサンプルを集め、サイズ感や形を調整した。柳沼氏は「ボランティアを募集するのは時間がかかり、効率が悪い。チーム内に女性がいれば、すぐに意見を聞いて、改善策を練られる」と製品開発チームに女性がいない苦労を指摘する。
とはいえ、採用したくても女性人材がそもそも市場に少ないという問題に突き当たる。給料を上げて、数少ない女性人材に選ばれる企業になることも解決策の一つだが、それは限界があるだろう。そこでレノボが始めたのが、女子中高生の理系進学を後押しする取り組みだ。
レノボは、テクノロジー分野のジェンダーギャップ(男女格差)の解消を目指す一般社団法人Waffle(ワッフル)と協力し、21年10月から全国の中高生を対象とした出張授業を実施している。授業では、IT(情報技術)・テクノロジー分野でのジェンダーギャップと同分野への進学・就職後のキャリア形成について話し、「自分が思っていることを形にする喜びや、ゲームみたいに仕事に取り組めることなどの良さを伝えるようにしている」(柳沼氏)。1年間であった応募は約10校。ほとんどが高校からで、女子校よりも共学校の方が多いという。「数よりも質を大切にしたい」と同氏は話す。

中高生をターゲットにする背景には、中高生で理数系科目への関心がぐっと下がることがある。
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