カギとなる「リメディアル教育」とは

22年度に工学部を開設した奈良女子大学の校舎
22年度に工学部を開設した奈良女子大学の校舎

 もう一つの誤算は、工学部に文系の学生が想像以上に集まらなかったこと。文系の学生も受験できる入試制度を整えて、当初は入学生の2割を文系にしたいと思っていた。

 しかし、初年度の入学生は、高校の文系コースで理系科目を取っていた学生が1人いるだけで、あとは全員理系コース出身だった。受験者を見ても、文系出身は少なかったという。日本で長年続く「文理の壁」は想像以上に高くそびえ立つ。

 壁を取り除くために、カギとなるのは「リメディアル教育」だ。リメディアル教育とは、高等教育機関で学ぶために必要な学習能力を支援するためのプログラムのことで、奈良女子では、理科や数学の基礎科目を丁寧に指導する補習を用意している。文系の学生も工学部に入るという想定の下、設けたプログラムだった。

 ただ、学期末の成績では、理系出身の一部学生も数学や理科で苦戦する結果となった。「高校の段階で差がついている」と藤田教授。初年度であるため、レベル設定の難しさがあるが、高校時代の文系・理系選択にかかわらず、理系科目のリメディアル教育は重要になりそうだ。

「高校生は時代の変化を感じている」

 デジタル化や脱炭素などの動きが加速する中で、文部科学省は理系学部への再編や定員増をする大学を支援する方針を固めるなど、理工系人材の育成強化に動いている。

 大学側は、助成金を活用して学部の再編に取り組むほか、企業と連携したイベントやワークショップ、職場体験なども行っている。IT(情報技術)分野におけるジェンダーギャップの解消を掲げる特定非営利活動法人Waffleで共同代表を務める田中沙弥果氏は、「大学が実践的な理工系人材育成の取り組みを継続するには、企業の協力が必要だ」と指摘する。

 藤田教授は「我々が思っている以上に、高校生は時代の変化を感じている」と話す。理系人材の不足が課題となっている中で、企業側が採用や研修制度などを見直すだけでは根本的な課題解決にはつながらない。社会に出る前の学生を支援し、学べる環境を整える取り組みをしなければ、人材の母数を改善することはできない。学生の期待に応え、よりよい人材を企業に迎え入れるためには、官民学の長期的な投資が欠かせない。

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