初年度は「曇りがちの晴れ」

 「『工学部をつくろう』と言ったとき、周りは全員反対でした」――。18年秋ごろ、工学部開設の話し合いが始まった当初を奈良女子の藤田教授はこう振り返る。

 工学部を担当する教授など、必要なリソースは既存の学部から集めなくてはならない。リソースが減る側からしたら、不満や不安を感じるのも無理はないだろう。しかし、エンジニアリングの多様化に向けて社会に少しでも役に立ちたい――。文部科学省からの猛烈な後押しもあり、22年度に奈良女子大学は、女子大初の工学部開設を実現した。

 22年度の入試では、工学部の倍率は平均で6倍と、期待以上の応募だった。志望動機のアンケート調査には「共学だったら工学部に行くつもりはなかったが、女子大に工学部ができると聞いてエンジニアを目指す気になった」という声が複数あったという。

 好調な一方で、藤田教授は初年度を「曇りがちの晴れ」と評価する。なぜか。

奈良女子・工学部の講義の様子
奈良女子・工学部の講義の様子

主体性を阻む壁

 まず、同学の工学部では、主体的に活動できる人材の育成を目指している。背景には、「用意されたプログラムに合わせて学ぶ学生では、時代の変化に対応できなくなってしまう」という藤田教授の危機感がある。工学部の専門科目単位のうち、必須科目以外は、究めたい専門性によって自由に履修できる制度を導入した。

 しかし、これが一つ目の誤算だった。学生が興味・関心に合わせて自由に履修できる制度は、高校を卒業したばかりの学生には荷が重かった。それまで決められた時間割で、決められた授業を受けてきた学生には、主体的に学ぶ方法やノウハウが分からなかったのだ。

 奈良女子では、主体性を伸ばすため、その人の能力や個性、目標に合わせて必要なサポートをするコーチングの授業を工学部開設時から用意していた。しかし、「そう簡単には主体的に活動をしてくれない。見込みが甘かった」(藤田教授)との経験から、来年度はコーチングのプログラムを増やすなど、サポートを強化していきたい意向だ。

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