女子大学による工学部の開設が始まっている。理工学部に進む女子学生は少なく、立ちはだかる「文理の壁」を崩すことが期待される。工学部を開設して1年がたつ奈良女子大学と、2024年度に開設を予定しているお茶の水女子大学。エンジニアリング業界の多様化が求められる中で、国立大学が導く「新しい工学部」とは。

 日本には国立の女子大学が2校ある。西の奈良女子大学と東のお茶の水女子大学だ。奈良女子は22年度に工学部を開設し、お茶の水女子は24年度に「共創工学部(仮称)」開設を予定している。両大学は16年度、工学分野の教育強化のために、女子大で初めて工学関連の学位が取得できる大学院「大学院生活工学共同専攻」を共同で立ち上げていた。

 女性の理工学分野への進学率の低さは大きな課題だ。22年3月に発表した内閣府の分析調査によると、分野別の入学者に占める女性比率の全国平均は、「理学」が30.2%、「工学」が15.2%。理工系への進学率の低さは、主に2つの要因が考えられる。

お茶の水女子大学の本館
お茶の水女子大学の本館

工学部のイメージ改革

 まず、共学の大学では工学部生の8割以上が男性であるため、女性はマイノリティーの立場に置かれる。奈良女子大学工学部学部長の藤田盟児教授は、「圧倒的に男性が多い環境は居心地が悪く、結果的にやめてしまう人も少なくない」と指摘する。

 入学する未成年の多くにとって大学は、これから自分の興味・関心に応じた能力や個性を伸ばす場だ。共学で性別を含めた多様な環境で学ぶことも価値の一つだが、マイノリティーという心的負担が、能力や個性を伸ばす足かせにもなりかねない。女子大に工学部を設置することは、心的負担が一つ減る環境だという点で大きなメリットと言えるだろう。

奈良女子での講義の様子。男性が8割以上という共学の環境に比べると、心的負担の軽減が期待される
奈良女子での講義の様子。男性が8割以上という共学の環境に比べると、心的負担の軽減が期待される

 もう一つは、「技術開発が中心で、力仕事を伴う」というイメージだ。そのために女性から敬遠されていた。

 そこで両大学が取り組むのは「工学」と「リベラルアーツ」の融合だ。情報の分析などソフトな工学分野が注目されるようになり、先述したような典型的な工学ばかりではなくなっている。それをさらに生かし、伸ばすことで、「新しい工学部」を設立しようとしている。

 お茶の水女子が24年度に開設を目指し準備している「共創工学部(仮称)」は、文理を融合しているのが特徴だ。「文科系の学生にも、理学や工学に関心を持ってほしい」(お茶の水女子大学の新井由紀夫理事・副学長)という思いがある。

 学科では、人の健康や住まい、生活といった身近な部分を工学的な視点で扱う「人間環境工学科」や、文学や芸術、歴史などの情報を分析して価値を創出する「文化情報工学科」を設置する。従来の「文系」「理系」両方の視点と知見を持ち合わせた人材の育成が期待される。お茶の水女子の大瀧雅寛教授は「つくりたいのは、『女子大の工学部』ではなく『新しい工学部』」と意気込む。

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