
僕は新規事業家として、30年あまり、企業の中で事業を生み出す、ということに専念してきました。この経験の中で得た結論は、「企業は必ず新規事業を生み出せる」ということでした。しかし、中小企業の方が口にするのは、「スタートアップは一意専心で新たな事業を生み出せてうらやましい」「大企業はリソースと経験が豊富に用意され安定の中でチャレンジできてうらやましい」という嘆きでした。中小企業の自分たちは「V字の谷におり、新規事業どころではない」と。
悲観したくなる気持ちは分かります。しかし、物事は「静的で一面」ではなく「動的で多面」です。だから、中小企業がスタートアップや大企業と比べて新規事業を生み出すのに、常に不利な状況かというと、そんなことはないのです。むしろ、僕は「中小企業こそ新規事業を生み出せる」と思っています。
では、なぜ「事業を生み出せない現状」があるのでしょうか。今回は、その要因をひもときます。
新規事業に対して、「力を削ぐ方向」と「力を増す方向」とがあるとすれば、「力が増す方向」を強めていくべきですよね。しかし、その当たり前のことができず、多くの場合「力を削ぐ方向」で新たな事業に着手してしまっているのです。
ちなみに、「力を削ぐ方向」とは、
①自社に対する自己認識が、力が削がれる方に向けられている
②新規事業に対する向き合い方が、力が削がれるやり方になっている
という2つに大きくは分解できます。
①自社に対する自己認識
「自社に対する自己認識が、力が削がれる方に向けられている」とは、一言でいえば「自社なんてどうせ」といったマインドセットのことです。「うちみたいな中小企業は…」「うちの業界は…」。このあたりの嘆きは、定番中の定番なのではないかと思います。
でも、本当にそうでしょうか? 「じつはそんなことはない、むしろ真逆である」、そんな見立てもできるのではないでしょうか。
例えば、スタートアップはナイナイ尽くしであることも少なくありません。カネもナイ、ヒトもナイ、会社としての歴史も事業の実績もナイのです。また、大企業には「大企業病」という言葉があるほど旧態依然としていますし、組織が大きいためどうしようもないほどの動きにくさがあります。
では、中小企業はどうかというと、両者の良さを併せ持っているのではないかと思います。スタートアップよりリソースを持っていて、大企業よりも早く動けるのです。「自社がスタートアップと大企業のイイとこ取りである」という面を見落としている、ということです。僕は、この面に着目しているから、「中小企業だからこそ新規事業を立ち上げられる」と思っているのです。
また、自社の属する業界や業種がマイナスの意味で「特異だ」という意識を持っていることもあります。だから、「うちの業界は勢いがあり、取り組みやすく、革新的だ」とは決して言わず、「うちの業界は苦しくて、難しくて、古めかしい」と言うのです。「物流業界は人手不足で苦しい」「農業は自然を相手にしているから難しい」「士業は堅くて規制でがんじがらめだ」と。あらゆる業界の人がその業界の困難性を嘆きます。ただ、あらゆる業界の人が言うということは、すべての業界が「特異」ということで、つまりそれは「単なる個性の差分」でしかないと僕は思うのです。
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