新規事業創出の専門家である守屋実氏の連載第4回は、事業の計画を「魅せる」ことの重要性について。スタートアップであれば、ピッチなどで新規事業のプレゼンテーションをする機会が多くある一方、企業内起業ではそのチャンスが極端に減ります。大げさでなく、事業計画のゴールが上司からの評価だったりするのです。その事業における唯一無二の利害関係者が上司であるならともかく、そうでないなら、多様な利害関係者にいかにその事業が有望であるかを分かってもらうことが大事なのは自明のはず。そこで、今回は事業をプレゼンする力を身に付けるための具体的な方法についてご紹介します。

事業をスタートするからにはそれを「魅せる」必要がある

 本連載の初回では「新規事業のアイデアは出せる」ことをお伝えし、2回目は「アイデアの種はいくらでもある」こと、3回目は「アイデアを事業のカタチにするステップ」を紹介しました。今回は、描いた事業を伝える力についてお伝えしたいと思います。

 事業をスタートさせるには、多様な利害関係者から、その事業に対する深い共感を勝ちとる必要があります。スタートアップであれば、「ピッチ大会に出場する」など、自らの事業がいかに革新的であり、社会や顧客にとってどれほど価値があるかをプレゼンテーションする場に身を置くことは、そんなに珍しい話ではありません。

 しかし、大企業や中小企業の新規事業担当者となれば、話は変わります。ピッチ大会に出ることはほぼありません。それどころか、スタートアップが自分たちの事業計画をどんどん公の場で発信しているのに対して、情報を意味もなく守秘しようとする傾向さえあります。

 「新規事業のアドバイスをしてほしい」と相談をもらった際に、「自分の手に負えるか分からないので、どんな事業かざっくり教えてください」とお願いをしたら、「言えません」と返答されたことがあります。面倒で手間がかかりスピードが落ちるのですが、仕方なく守秘義務契約を交わし聞いてみると、ほぼ中身のない話でした。少子高齢化社会なので「高齢の方がいきいきと暮らせる社会をつくる」とか、子育ての悩みを解消するための「『孤育て』解消サービス」とか。

 「で、中身は?」と聞くとまったく詰まっていない。本当に立ち上げるかさえ決まっていません。そういったほぼ無意味な守秘行動を、ただ従って行っているような状態なので、当然、自らの事業をプレゼンテーションするトレーニングをしたことはなく、だからプレゼン力がまったく育っていないのです。

 また、企業内起業は、本業のある環境下での事業創出である場合もあります。本業が本業たるゆえんは、その企業におけるすべてが本業最適にできている、ということです。たとえば自動車会社であれば、上司も部下も顧客も競合も、使う言語も数字の感覚も、全部「自動車」がベースとなっている、ということです。そうした社内の常識(世間からすれば異質)にどっぷり浸かっているので、多様な利害関係者に伝わるように事業をプレゼンする意識が希薄であることもしばしばです。

 こうした環境ゆえに、企業内起業に携わる人たちはビジネスの成否が表現力によって影響されるとは思いもよらないのかもしれません。まずは「事業には表現力が必要」ということを踏まえて、その上でプレゼンテーションの方法を具体的に学んでいってほしいと思っています。

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