「ROCOCO Tokyo WHITE」は高級レストランだけを対象に商品を卸す。パーセプションチェンジでシャンパン市場を狙う
「ROCOCO Tokyo WHITE」は高級レストランだけを対象に商品を卸す。パーセプションチェンジでシャンパン市場を狙う

 「〇〇といえばXX」というパーセプション(認識)を変えることは、かようにマーケティングにとって非常に大切な要素だ。さて、ではパーセプションとはブランドや商品に対してだけ存在するものなのだろうか。

 答えは否である。パーセプションは特定の商品に対してだけではなく、商品をより広く捉えた「カテゴリー」にも存在する。カテゴリーとは「商品が属するマーケット領域」と言い換えてもいい。例えば「SUV(多目的スポーツ車)」は自動車のカテゴリーの1つだし、「掃除機」は家電の中のカテゴリーだ。

 多くの場合、カテゴリーに対するパーセプションに影響を与えているのは「オケージョン」だ。オケージョンを直訳すれば「場面」や「状況」となる。つまり消費者が商品やサービスを使う(あるいは想起する)特定の時間や場所を指す。食事や酒席の「乾杯」というオケージョンを例に、カテゴリーのパーセプションチェンジ(認識変容)について考えてみよう。

「ビール」でパーセプションの変化に挑む

 ビールベンチャーのメゾン・ロココ(東京・中央)は「ビール」のカテゴリーのパーセプションチェンジによって、シャンパン市場を脅かそうとしている。同社の高級ビールは発売からわずか1年で、都内にあるミシュランの星付きレストランの半数に導入された。

 今から10年数年前の2009年、空前のハイボールブームが巻き起こった。このきっかけをつくったのは、ウイスキー市場の低迷に苦しむサントリーが08年に開始した、ハイボールの大規模キャンペーンだ。これが功を奏し、25年もの間縮小していたウイスキー市場は一気に拡大。08年には30%ほどだったハイボールの認知率は1年で約80%にまで上昇。角瓶を使用したハイボールの取扱店は、4倍の6万店にまで増えた。

 ハイボールという飲み方を浸透させたサントリーのマーケティングは大成功した。この成功の要因の1つが、乾杯というオケージョンでのパーセプションの変化だった。言うまでもなく、このオケージョンをほぼ独占してきた酒類カテゴリーは「ビール」だ。「とりあえずビール」という言葉が示すように、乾杯といえばビールというパーセプションは根強い。

 ここに目を付けたサントリーは、女性や若者を中心に「乾杯でハイボール」というパーセプションを形成すべくPRを展開。「それぞれに好きなものを飲めばよい」という多様性を重視する価値観にも後押しされ、ハイボールで乾杯という行為は徐々に広がっていった。

 乾杯に選んだ飲み物は、2杯目以降も継続して注文されることが多い。乾杯といえばビールというパーセプションを変えたことで、ハイボール(ウイスキー)は新たなオケージョンを獲得したのだ。

 そのハイボールブームから10年。再び、乾杯というオケージョンに挑む企業がある。それがメゾン・ロココだ。同社は17年に創業した、ビールのスタートアップ企業。メゾン・ロココが挑むのは、高級飲食店における乾杯のオケージョンの獲得だ。

 メゾン・ロココは18年にホワイトビールの「ROCOCO Tokyo WHITE」を発売した。同商品は一部の高級レストランにしか卸していないため、一般的な認知はほぼゼロ。「セレブレーションビール」を標榜するROCOCOが着目したのは、一流レストランや料亭における乾杯のオケージョンだった。

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