日本政府はワクチンの開発と生産に関する課題を克服すべく、2021年6月に「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定した。その目玉の1つが、2022年3月に日本医療研究開発機構(AMED)内に設置された先進的研究開発戦略センター「SCARDA(スカーダ)」だ。緊急時に備え、平時からのワクチンの研究開発を主導するのがその役割だ。各省庁の縦割りを排した予算配分を行い、次のパンデミック(世界的大流行)に備えた技術を培う。既にワクチン開発のための世界トップレベルの研究開発拠点の形成事業やワクチン・新規モダリティ研究開発事業などを通じて、アカデミアや企業における研究開発の支援を進めている。SCARDAの現状や課題について、濵口道成センター長に聞いた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は第7波が収まりましたが、海外で新たな変異型が広がり始めています。どのようにご覧になっていますか。
濵口道成氏(以下、濵口氏):この感染症が今後1年や2年で終わり、消えていく状況だとは思いません。これだけ感染が広がると、頻度は低くても変異がたくさん出てきます。メッセンジャー(m)RNAワクチンの効果が高いと期待されましたが、半年もたつと中和抗体価が下がってしまいます。持続期間の短い予防接種をバラバラと実施しているので、免疫が切れた人が国内にたくさんいる状態です。
持続感染も報告されています。感染が数カ月間継続したエイズ患者から、何十カ所も変異が蓄積した新型コロナウイルスが見つかった例もあります。インフルエンザは治療をするとウイルスが完全に消えますが、新型コロナはウイルスが消えない感染者がいる。血液がんで抗体を作れなくなってしまった人や、臓器移植で免疫反応を抑えている人、糖尿病などの慢性疾患で免疫応答が弱っている人などに感染して、長く生き残ったウイルスが変異して出てくる可能性が指摘されています。
スペイン風邪を前例に、3年経過したのだからそろそろ終わるだろうと考えるのは間違っていると思います。何よりも大きな課題は、発展途上国にワクチンが届きにくいことです。アフリカとアジアの人口を合わせると、全世界の8割に達します。そうした人口の多い地域、特に農村部などで接種率を高めるのに、凍結保存が必要な今のワクチンは適していません。世界全体にこれだけ感染が広がると、地域によって変異型のパターンが全く異なるという問題もあります。
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