企業や病院など、長年、赤字が続いた企業や組織の経営を次々と任され、全て立て直すという驚くべき手腕を発揮した経営者がいる。現在、JR貨物の相談役を務める石田忠正氏だ。

日本貨物航空(NCA)の自立化に道筋をつけた石田氏は、日本でもトップクラスの医療水準を持ちながら、赤字経営が続いた公益財団法人がん研究会という病院・研究所の再建に挑み、医師や看護師、職員らと共に取り組んで短期間に大幅な収支改善を果たした。

その石田氏に、国からJR貨物再建の依頼が届いた。石田氏は依頼を引き受け、幹部全員の集中合宿を開催した。それを契機に幹部の意識が大きく変化し、長らく続いた貨物鉄道事業の赤字脱却、そして黒字化へ向けての決意が固まった。幹部の決意は、やがて全国の現場にも浸透し、あらゆる社員たちが、昨日より今日、さらに明日へと、よりよい結果を目指すようになり、黒字化達成への気概が会社全体にみなぎってきた。

外部環境の変化と国内輸送の諸問題から期待が高まっている貨物鉄道(写真提供=JR貨物)
外部環境の変化と国内輸送の諸問題から期待が高まっている貨物鉄道(写真提供=JR貨物)

1. 第3の経営改革の柱「組織改革」で、経営基盤を強化

 JR貨物の長年の課題だった鉄道事業の赤字脱却のため、全幹部、さらに全社員が力を合わせて「計数管理改革」や「営業改革」に取り組んだ様子を前回、ご紹介した。そして第3の経営改革の柱であり、企業風土の刷新にもつながるのが、今回お話ししたい「組織改革」である。

企業風土、会社の体制を変える組織改革に着手

 全社で改革への意識が高まる中、コーポレートガバナンス(企業統治)強化のため、取締役会・経営会議などの諸規定を大きく見直し、稟議(りんぎ)規定も承認金額の明確化、電子化など、抜本的に改定した。

 社外取締役3人のうち、2人は女性に入ってもらい、他社でも経験豊富な男性と共に外部からの視点で自由に意見を述べてもらうと同時に、ダイバーシティー(多様化)の意識を持つことの重要性を示していただいた。

 3人の社外監査役はグループ会社を含む全国の現場を精力的に歩き、我々に問題点と改善点を詳しく報告・指摘していただいたので、実態がよく分かり、大きな力となった。取締役も監査役もそれぞれに個性と説得力を発揮していただいたことに感謝している。世間では社外取締役の人数はそろえたが、なかなかうまくいかないという話を耳にする。大切なことは形を整えることではなく、真にふさわしい方に入っていただくこと、信頼すること、そして外部の知見が極めて重要であることを、トップが身をもって社内に示すことであると思う。

社内の議論をもとに組織体制を刷新、新たな強みの創出が可能に

 組織構成は、それまでの大小の部門が並列した複雑な形から、「安全統括本部」「鉄道ロジスティクス本部」「事業開発本部」「経営統括本部」の4本部制に整理統合した。安全と鉄道・物流業務の責任を明確化すると共に、不動産などの事業開発による利益を最大化し、企画・財務・人事・情報システムなど全ての管理部門を統合し経営力を強化することが狙いである。

 従来なかったコンプライアンス・法務部を新設し、法令順守のほか、パワハラ・セクハラなどの対策を強化した。JR貨物のグループ各社についても、コーポレートガバナンス・コンプライアンスの強化や本社との人事交流などを通じ、組織体制の強化とグループの一体化を推進した。

 その後、経営基盤強化のため、リスク統括本部を新設した。まず、PEST分析(政治・経済・社会・技術の4面から分析する手法)を使い、起こり得るあらゆるリスクを洗い出した。次に、全てのリスクを重要度・緊急度に応じて順位付けし、一覧表にまとめた。これを幹部全員で定期的に見直し、修正を行うようにした。リスク対策の検討事項は全国の各部門で共有し、災害や経済危機などにも対応しているが、特に感染症対策や各種会議のペーパーレス化・電子化などの推進は、その後に発生した新型コロナウイルス禍におけるテレワークなど、各種の対策に大きな効果を発揮した。

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