
1.収支改善に欠かせぬ実態解明と情報開示。数字の見える化で危機感を共有
収支改善─赤字の実態を知った医師たちは目の色を変えた。
赤字続きの病院経営において、もっとも重要な課題は、収支の改善だった。
だが改革に取り組んだ当初、赤字解消や収支改善の話をすると、医師たちから「金もうけのために働いているのではない」といった意見が上がったり、研究者からは「研究の成果は1年ではなく、長年かけて見るもの」と言われたりした。
私は合宿や経営会議などで、民間組織であるがん研が存続するためには健全な経営、適正な利潤が必須であること、利益が上がれば、設備投資など医療や研究の向上に向けられ、好循環が生まれることを繰り返し述べた。
そこでまず、従来どんぶり勘定であった研究所と病院の収支を分割した。さらに病院の収支を消化器、呼吸器など10部門以上の診療科別に分解し、生データを示した。
部門ごとの実際の数字が明らかになると、赤字の実態や自分たちの貢献度が目に見えて分かるようになった。それを初めて見た医師や研究者たちの目の色が変わった。
この部門別収支は毎月算出され、定例の理事会、経営会議、部長会議でも開示、解説された。直ちに全ての部、診療科の中で詳しい分析、検討が行われた。
病院内では、医師、看護師、技師、薬剤師や事務部門など、全ての職種が改善活動や日々の業務を通じ、収入の増大やコストの削減に知恵を絞るようになった。大型投資案件の吟味からガーゼの使用に至るまで、活動は拡大と深化を続けた。

東京大学特任教授、東京都港湾振興協会会長、東京水上防災協会会長なども歴任。
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