(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

企業や病院など、長年、赤字が続いた企業や組織の経営を次々と任され、全て立て直すという驚くべき手腕を発揮した経営者がいる。現在、JR貨物の相談役を務める石田忠正氏だ。石田氏は体験を重ねる中で、「業界や組織が違っても、経営の基本は同じだと確信した」と明かす。「全ては人。人の意識・意欲と知力が原動力だ」(石田氏)。では、どうやって行く先々で社員の心に火をつけ、組織風土を変え、化学変化を引き起こし、黒字化を達成してきたのか。石田氏が自ら執筆する。

1.企業の構造改革は待ったなし
経営再建のカギは組織の「風土」をどう変えるか

 日本経済の長期低迷と国際的地位の凋落(ちょうらく)を背景に、将来への危機感と構造改革の必要性が経営者たちの中に認識され始めた。各企業・組織にとり、生き残りを懸けた戦いであり、日本再生のための起爆力でもある。

(写真=北山宏一)
(写真=北山宏一)
石田 忠正・JR貨物相談役
熊本県出身、1968年慶応義塾大学経済学部卒業後、日本郵船に入社。2004年副社長に就任。07年に日本貨物航空(NCA)社長に就任、11年から公益財団法人がん研究会理事長補佐、13年に日本貨物鉄道(JR貨物)会長に就任。20年から相談役。東京大学特任教授、東京都港湾振興協会会長、東京水上防災協会会長なども歴任。

 企業の構造改革の必要性は言われて久しいが、ずるずると手つかずのまま放置されてきた。必要性は理解していても、経営者にとり着手しにくいテーマであることは事実である。特に人の心に関わる意識改革はどう進めるかが難しい。

 私は海運会社に約40年在籍した後、航空会社、病院・研究所、貨物鉄道の中で経営再建に取り組み、いくつかの協会や大学の運営に携わった。いずれも思いがけない偶然の出来事ばかりであった。同じ物流業でも、陸海空運では業容も文化も全く異なり、「海と空は違う」とか、「陸運・鉄道は特殊だ」とか、「ウチは別だ」とか、同じ社内でさえ「関東と関西は異質だ」などと言われた。病院・研究所ではお金に無頓着、組織的な動きが不得意など、全てが別世界であった。協会ではメンバー間の意識の差、大学では日本人学生と外国人留学生の積極性の違いなどに驚かされた。

 そうした体験を重ねる中で、組織風土の改革や働く仕組みの変革、事業構造の組み換え、ガバナンスの強化などに取り組み、多くの教訓を得た。

「産業の違いを問わず、経営の基本は同じ」と確信

 業界が変われば事業内容も財務体質も違い、自(おの)ずから対策も異なってくる。実際に打った施策も多岐にわたる。だが、私の中では「産業を問わず経営の基本は同じ」との思いは異なる業界で再建に取り組むごとに強まり、確信となった。すなわち、どの産業でも深く掘り下げれば、全ての基本は「人」。人の意識・意欲と知力が企業の原動力である。投資計画も新規プロジェクトもイノベーションも、何もかも、生み出すのは全て人だ。装置産業であれ、サービス業であれ、最先端企業であれ、研究機関であれ、基本は同じである。

 企業、組織を問わず、一人ひとりが本気になれば、目標は必ずや達成されよう。しかし、実はこれが一番難しい。人の意識はそれぞれだ。組織や制度はトップの一声で変えられても、人の心までは変えられない。集団規範に縛られた職場風土・企業文化や従来方式が壁となり、古い体質から抜け出せない。行動に移れない。空気のような重たい壁を壊さない限り、何も変わらない。

「全員参加の経営」を実現していく方法とは

 こうした中、どのように一人ひとりに「気づき」を促し、企業風土を変え、行動を引き起こし、化学反応の連鎖でエネルギーを結集・拡大し、目標を突破していくか。すなわち、全員参加の経営をいかに実現するか、これが最大の課題だ。

 トップダウンとボトムアップの融合の要であり、リーダーシップの要でもある。

 これが本シリーズのメインテーマである。この岩盤が動けば、横並び慣行の日本では構造改革が業界内に伝播(でんぱ)し、多くの産業を巻き込み、低迷を続ける日本経済の再生さえ引き起こしうる。それほど根源的テーマであり、巨大なエネルギーが眠っているのだ。

 この連載では、色々な企業・組織の体験から得た知識・知恵を整理・体系化し、経営改革の進め方を皆さんと一緒に考えていこうと思う。そこで、もう少し、私のキャリアと学びのエッセンスをお話ししておきたい。

次ページ 2.私が携わってきた構造改革の実例(要約)