企業や病院など、長年、赤字が続いた企業や組織の経営を次々と任され、全て立て直すという驚くべき手腕を発揮した経営者がいる。現在、JR貨物の相談役を務める石田忠正氏だ。

日本貨物航空(NCA)の自立化に道筋をつけた石田氏は、日本でもトップクラスの医療水準を持ちながら赤字経営が続いた、公益財団法人がん研究会という病院・研究所の再建に挑み、医師や看護師、職員らと共に取り組んで短期間に大幅な収支改善を果たした。さらにJR貨物では、長らく続いた貨物鉄道事業の赤字脱却をも果たした。

今回は、石田氏がJR貨物の管理職に送ったメッセージをお届けする。そこには「リーダーシップ」についての、石田氏の思いが込められている。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 リーダーシップは企業経営、組織運営を行う上で欠かすことのできない、目には見えない大きな力である。

 JR貨物会長に就任後、経営改革を進める早い段階で、「リーダーシップ」に関する私の考え方を社内報で全社に伝えた。役員や支社幹部などの合宿の連続で古い社風が変わり始め、いよいよ経営改革を全国の現場に展開する段階であった。

 改革の必要性と意義については、各種の会合や式典、社内報など、機会を捉えて述べていたが、特に、改革の実質上の推進者である全国の管理職にリーダーシップの意味をよく理解し、各職場の中で存分に力を発揮してほしかったからである。なお、このメッセージは管理職を主たる対象としたものであるが、経営者、及び若手社員・職員にも当てはまるものである。下記メッセージをご覧いただき、参考にしていただければ幸いである。

「リーダーシップのあり方」~JR貨物社内報に載せたメッセージ

 本誌(社内報の特別号)は管理職を対象としたものと聞きましたので、「個人とチーム」の関係を中心にリーダーシップのあり方につき、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。我が社は現在、本業たる鉄道事業の万年赤字からの脱出を目指し、全社運動を展開しているところですが、その成否はまさに現場のリーダーである皆さんの双肩に掛かっているのです。

 どのような会社でも問題のない会社・職場はありません。問題があって当然ですし、多ければそれだけ改善の余地が大きいということです。宝の山とも言えます。解決策は職場の中、皆さん一人ひとりの手の中にあるものです。

 経営の原点として、「全ては一人ひとりの意識から」といわれますが、全くその通りです。社員それぞれが「自分がやらねば誰がやる」と強い気概を持って取り組めば、必ずや目標は達成されることでしょう。しかし、「一人ひとりの意識」は黙っていて自然に生まれてくるわけではありません。この点が最も難しく、これさえできれば最高の管理職、経営者といわれるゆえんでもあります。

 会社全体としては、まずトップが将来ビジョンと目指すべき目標、そこに至る大きな戦略を明確に示さねばなりません。これは必須条件で、これがなければ全社のベクトルがそろいません。我が社ではご承知の通り、経営改革とその目標については、トップの方針が明確に示され、幹部も合宿などを通じ全員が共有していますから、心配は要りません。これを部門長、支社長が自らの部署に落とし込み、目標、戦略を定め、中間管理職が実務担当者と共に具体的目標と対策を定め、実行に移すのです。

石田 忠正・JR貨物相談役
(写真=北山宏一)
(写真=北山宏一)
熊本県出身、1968年慶応義塾大学経済学部卒業後、日本郵船に入社。2004年副社長に就任。07年に日本貨物航空(NCA)社長に就任、11年から公益財団法人がん研究会理事長補佐、13年に日本貨物鉄道(JR貨物)会長に就任。20年から相談役。
東京大学特任教授、東京都港湾振興協会会長、東京水上防災協会会長なども歴任。

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