企業や病院など、長年、赤字が続いた企業や組織の経営を次々と任され、全て立て直すという驚くべき手腕を発揮した経営者がいる。現在、JR貨物の相談役を務める石田忠正氏だ。

日本貨物航空(NCA)の自立化に道筋をつけた石田氏は、日本でもトップクラスの医療水準を持ちながら、赤字経営が続いた公益財団法人がん研究会という病院・研究所の再建に挑み、医師や看護師、職員らと共に取り組んで短期間に大幅な収支改善を果たした。さらにJR貨物では、長らく続いた貨物鉄道事業の赤字脱却をも果たした。

そんな石田氏の原点は日本郵船での勤務にある。特に課長時代は現場での業務改善活動に加え、グローバル化が進む中での海運事業の新しい枠組みに挑戦した。

1 総務課の女性たちが盛り上げた業務改善運動

 本社労務課勤務の後、初めて赴いた海外駐在地はイタリアのミラノだった。地中海諸国の代理店の統括が主業務であったため、出張の連続であったが、イタリア人を含め南欧の人たちは皆、仕事と家庭を愛する、温かく魅力的な人ばかりだった。

 見も知らぬ土地に突然一人放り出され、まさにゼロからのスタートであったが、かけがえのない経験と学びを山ほど頂いた。家族にとっても忘れられない生涯の思い出の地となったが、それらについては別の機会にゆっくり記したいと思っている。

 国の内外を問わず、未知の土地で働く機会があれば、特に若い人にはぜひ挑戦していただきたい。必ずや、一回りも二回りも大きくなって帰ってくることだろう。

イタリア・ミラノの駐在時代、現地のスタッフを招いての自宅パーティー
イタリア・ミラノの駐在時代、現地のスタッフを招いての自宅パーティー

「営業社員を助けることが総務の役割」

 帰国後の名古屋支店・課長時代は担当の港湾業務とは別に、支店の若手を集めて業務改善運動を始めた。ある時、運動のメンバーである総務課の女性たちが昼休みに円卓を囲んで話し合っているので、聞いてみた。すると「営業の皆さんは自動車会社をはじめお客様へのサービス改善に一生懸命です。私たちの役割は社内の皆さんを助けることだと気が付きました。社内の皆さんは私たちのお客様なのです」という答えが返ってきた。

 そして彼女たちの改善活動が始まった。社員へのアンケート調査に基づいて、使いやすい筆記用具を選定し、ノート・ファイルケースの入れ替え、書類回覧や会議室予約の簡素化、職場の清掃、顧客の待ち時間の短縮、各種催し物や運動会の開催など、彼女たちの献身的な活動は社内を動かした。支店長はじめ、各課の課長たちも全面的に応援してくれた。

石田 忠正・JR貨物相談役
(写真=北山宏一)
(写真=北山宏一)
熊本県出身、1968年慶応義塾大学経済学部卒業後、日本郵船に入社。2004年副社長に就任。07年に日本貨物航空(NCA)社長に就任、11年から公益財団法人がん研究会理事長補佐、13年に日本貨物鉄道(JR貨物)会長に就任。20年から相談役。
東京大学特任教授、東京都港湾振興協会会長、東京水上防災協会会長なども歴任。