この数日、米国の暗号資産(仮想通貨)業界で“Infection(感染)”というキーワードが飛び交っている。新型コロナウイルスのことではない。仮想通貨交換業大手であるFTXトレーディング(本社登記地はバハマ)の破綻に端を発する仮想通貨暴落が、他企業や業界、市場に波及して倒産ドミノに発展することを意味している。

 米国西海岸に本社を置く仮想通貨関連企業の幹部はこう話す。「感染と呼ぶか飛び火と呼ぶかは別にして、FTX破綻の影響をゼロにする手立てはない。業界は総出で悪影響をできるだけ小さくする手立てを打っているが、どこまで効果があるか分からない」

経営破綻した米FTX。仮想通貨暴落の発端となり、連鎖倒産の恐れが指摘されている(写真:Leon Neal / Getty Images)
経営破綻した米FTX。仮想通貨暴落の発端となり、連鎖倒産の恐れが指摘されている(写真:Leon Neal / Getty Images)

 仮想通貨のリーマン・ショックだ──。SNS(交流サイト)ではこんな声も漏れ始めた。今、仮想通貨業界に何が起きているのか。破綻のドミノは起こるのか。まずはこれまでの流れを整理しよう。

 2022年11月11日、FTXは米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請し、経営破綻した。負債は数兆円規模とみられ、仮想通貨業界では過去最大となる見込みだ。チャプター11は日本の民事再生法に相当する再建型の法制度。破産申請の対象はグループ企業130社で、日本法人であるFTX Japanも含まれる。同社のサム・バンクマン・フリード最高経営責任者(CEO)は辞職した。

チャプター11に基づいて破綻申請したことを示すFTXのプレスリリース
チャプター11に基づいて破綻申請したことを示すFTXのプレスリリース
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 FTXのリスクが明らかになったのは、米仮想通貨メディアであるコインデスクが11月2日に掲載した記事だった。コインデスクはFTXの姉妹企業である投資会社アラメダ・リサーチの貸借対照表を入手し、同社の資産の大半は同グループであるFTXが発行するトークン(電子証票)「FTT」だったなどと報じた。

 11月6日には世界最大の仮想通貨交換業者であるバイナンスのチャンポン・ジャオCEOが、保有するFTTの売却を決定。FTXに対する信用不安はさらに悪化した。FTT価格は暴落し、FTXの破産を恐れ出金しようとする顧客が殺到。信用不安などから市場が混乱し取引が不可能になる「流動性危機」が一気に顕在化した。FTXが顧客資産をアラメダに不正流用した疑いも浮上している。

 FTXは顧客資産を返金できない事態となりバイナンスに救済を求め、バイナンスは11月9日にFTXのグローバル市場向けサービスである「FTX.com」の買収に合意。しかしデューデリジェンス(資産査定)の結果を受けてバイナンスは翌10日、一転して買収の見送りを決定した。この判断が破綻を決定的にした。

 FTXの破綻を受けて仮想通貨価格は大幅に下落。22年11月2日時点では3800円程度で推移していたFTTは、11月16日時点で220円前後まで急落している。

 FTXの破綻とFTTの価格暴落の影響はどのように波及するのか。大きく2つある。

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