「今は『冬の時代』ですから」。米サンフランシスコで米国時間10月18日から始まったスタートアップの祭典「TechCrunch Disrupt(テッククランチ・ディスラプト)2022」。会場となったモスコーニ・センターには世界中からスタートアップが集まったものの、暗号資産(仮想通貨)系のサービスは鳴りを潜めた。

 NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を除けば、仮想通貨業界に以前のような熱狂の渦は見当たらない。2020年末から好調だった相場は21年末から下落に転じ、22年10月時点でも低調に推移している。仮想通貨の代表格であるビットコインは、10月21日時点で約287万円と過去1年で60%以上、下落している。

 冒頭の発言はテッククランチ・ディスラプトに参加した米スタートアップの経営者の口から出た言葉だ。そしてこう続けた。「だけど、冬の時代はまもなく終わる。僕たちはそのときのために、開発を継続している」

 確かに、雪解けの兆しはある。

 米Google(グーグル)は米国時間の10月11日、仮想通貨交換事業者大手の米Coinbase(コインベース)との包括提携を発表。グーグルのクラウドサービス「Google Cloud(グーグル・クラウド)」の代金を仮想通貨で支払えるようにすると明らかにした。グーグルのクラウド部門が開いた顧客・開発者向けの年次イベント「Google Cloud Next(グーグル・クラウド・ネクスト)’22」の場で明かされた両社の提携に、仮想通貨業界はがぜん盛り上がった。

 グーグルの広報担当者によれば、既に一部の顧客に対して仮想通貨決済を解禁しており、23年初めにはより多くの顧客が利用できるようになるという。

グーグルのクラウド部門を率いるトーマス・クリアンCEO(最高経営責任者)がコインベースとの包括提携を発表した(写真:グーグル)
グーグルのクラウド部門を率いるトーマス・クリアンCEO(最高経営責任者)がコインベースとの包括提携を発表した(写真:グーグル)

 まず、グーグルはコインベースの仮想通貨支払いソリューションである「コインベース・コマース」を利用する。同サービスは10月時点でビットコインなど10種類以上の仮想通貨をサポートしている。今後、分散型の次世代インターネットである「Web3(ウェブスリー)」に関連するスタートアップなどがグーグルに対して仮想通貨決済を求める動きが広がるとみられる。

 また、グーグルは仮想通貨の保管や管理、移転を安全に行うためのサービス「コインベース・プライム」も採用する。グーグル・クラウドの顧客にとって、仮想通貨が法定通貨と同様、決済の手段になるわけだ。

グーグルに他社は追随するのか

 一方、コインベースはグーグルとの包括提携によって、自社サービスの基盤をグーグル・クラウドに切り替える。これまで同社は米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)のクラウドを利用していた。米CNBCは「コインベースはAWSからグーグル・クラウドに(基盤の)一部を移行する」と報じている。

 コインベースのWeb3アプリ開発者向けサービスと、グーグルが保有するデータを組み合わせることで、開発者は複雑なインフラなしでサービスを構築できるようになる。グーグル・クラウド・ネクスト’22にビデオ出演したコインベースのブライアン・アームストロングCEOは「グーグルとの包括提携は、起業家や開発者に強力なソリューションを提供する機会だ」と語った。

 冒頭の起業家はこの発表を歓迎し、日経ビジネスの取材に対して次のように語った。

 「これまでの仮想通貨やNFTは一部の人間だけが利用する世界の話だった。グーグルが支払いを認めるようになれば、他の企業も追随するはず。ブームではなく誰もが使えるような状態になって初めて、冬の時代は終わる」(米スタートアップ企業の創業者)。仮想通貨業界やスタートアップ業界では両社の包括提携を歓迎する声が多く聞かれる。

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