「自動車1台当たりのコストが平均で2000ユーロ(約28万円)上昇するだろう」。ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)の乗用車部門トップを務めるトーマス・シェーファー氏が、テクノロジー見本市「CES 2023」に合わせて米国で日経ビジネスなどの取材に応じ、欧州における自動車の新たな環境規制「ユーロ7(Euro7)」などによってコストが増大する懸念を示した。

ユーロ7は、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が2022年11月に規制案を発表した。25年から乗用車や小型商用車、27年からトラック・バスなどの大型車に厳しい環境基準を適用する見通しとなっている。
欧州の環境規制は1992年の「ユーロ1」が始まり。大気汚染物質の上限値を定め、基準を超えると自動車メーカーは車両を販売できなくなる。二酸化炭素(CO2)などの排出量規制は、基準を超えた場合に罰金を科すケースもある。欧州の環境規制は販売を禁止する点で、メーカーにとってより厳しい基準といえる。
ユーロ7の特徴は、現行の「ユーロ6d」に含まれなかった電気自動車(EV)を規制対象とした点にある。動力源や燃料、車種に関わらず、タイヤなどから摩耗によって生じる粉じんも規制対象になるためだ。EVはバッテリーを搭載することで、ガソリン車などに比べて車両重量が重くなる傾向にある。欧州自動車メーカー関係者は「EVにとって不利な条件だ」と打ち明ける。
新たな規制としてユーロ7ではアンモニアが追加され、試験の条件も厳しくなる。総じてユーロ6dより基準は厳格化されている。
厳しい規制に自動車業界からは戸惑いの声が漏れる。欧州自動車工業会(ACEA)はユーロ7の発表を受け、「深刻な懸念を抱いている」との声明を公表した。昨年までACEAの会長を務めたBMWのオリバー・ツィプセ最高経営責任者(CEO)は「環境面でのメリットは限定的な一方で、自動車のコストを大幅に引き上げる」とコメントしていた。
一方でコスト増の具体額について、欧州自動車大手はこれまで言及してこなかった。
VW乗用車部門のシェーファー氏は2000ユーロのコストについて以下のように語った。「排ガスだけでなく、(ユーロ7以外の規制である)サイバーセキュリティーや安全規制などがパッケージになっている。(それらを組み合わせると)私見では自動車1台当たりのコストが2000ユーロ上昇する」
コスト増に加えて、ユーロ7のスケジュールに関しても言及。「現在、欧州委員会が提案しているスケジュール通りに25年に(乗用車などで)全車両の認証を取得することは自動車業界や担当官庁にとって一般的に困難だ」と持論を述べた。
Powered by リゾーム?