地震、台風、大雪、津波。災害の多い日本では、コンビニが社会インフラとして役に立つ。地域住民の命をつなぐ生命線だからこそ、いざ災害が起きた時の本部の対応は一刻一秒を争う。店舗の従業員は無事なのか。営業を続けられる状態なのか。現場にはどんな要望があるのか――。これまで手作業だった情報収集も、IT技術の進歩とともに「可視化」されつつある。国内最大手のセブン-イレブン・ジャパンの災害対策システムの最前線に迫った。

 今年9月、気象庁が「過去に例がないほどに危険」とした台風14号が九州地方に近づいた際、セブン-イレブン・ジャパンは従業員や配送員、来店客の安全を守るため、西日本を中心に1000店舗以上が計画休業した。本部の対策会議で活躍したのが、同社が2015年から運用してきた災害対策システム「セブンVIEW」だった。

見た目はGoogleマップ

 VIEWは「Visual Information Emergency Web」の略だ。ブラウザーから開くと見慣れた「Googleマップ」の画面がトップに表示される。そこには国内に約2万1000あるセブン-イレブンの店舗がマッピングされており、気象庁が提供する台風の予想進路データをマップ上で重ねることで、今後被害が想定されるエリアを見極めることができる。

セブンVIEWではGoogleマップ上に台風の進路などを表示できる(画像は台風15号)
セブンVIEWではGoogleマップ上に台風の進路などを表示できる(画像は台風15号)
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 台風が過ぎた後の被害状況も、迅速に可視化して把握できる。マップ上で店舗を示すポイントは平常時は緑色だが、停電すると黄色に、無停電電源装置(UPS)の残量がゼロになると赤色に変わる。回線障害や計画休業の店舗も都度表示される。さらに、店舗ごとにどのような要請が来ているのか、アプリを通してコミュニケーションを取れるようになっている。土地勘のない社員も、ストリートビュー機能で周辺状況を確認できる。

災害時、店側は手持ちのスマートフォンのアプリを介して本部に被災状況や要望を伝える。安全な自宅や避難所からでも使えるようにしてある
災害時、店側は手持ちのスマートフォンのアプリを介して本部に被災状況や要望を伝える。安全な自宅や避難所からでも使えるようにしてある

災害多発でシステム刷新

 同社の災害への取り組みは長い。00年代に店舗での停電発生を自動で検知するシステムを開発。新潟県中越沖地震(07年)を経て「店舗の停電状況が分かれば地域の被害規模もつかめる」と考え、地震発生から15分以内に停電店舗の数を経営幹部に伝え、対策本部を立ち上げるかどうかの判断材料にしてきた。こうした運用は11年の東日本大震災でも生きたが、店舗数が年々増加するにつれ、人間による情報伝達は難しくなっていた。

 大きな契機となったのが14年。関東甲信地方では大雪で物流網がパンクし、広島県では豪雨で土砂崩れが発生。長野県・岐阜県にまたがる御嶽山が噴火するなど、各地で形態の異なる災害が複数回にわたって起きた。こうした状況を受け、新たに作り直した災害情報システムがセブンVIEWだった。

開発に携わった西村出執行役員は「システムをレガシー(遺産)にしてはいけない」と話す(写真=都築 雅人)
開発に携わった西村出執行役員は「システムをレガシー(遺産)にしてはいけない」と話す(写真=都築 雅人)

 システムの特徴は、米グーグルのクラウドサービス「Googleクラウドプラットフォーム(GCP)」を活用している点だ。従来のように自社サーバーやソフトウエアがなくてもインターネットを通じて利用でき、世界中のどこからでもアクセスができるようにした。将来、南海トラフ地震や首都直下地震などで拠点の多くが失われた場合も見据え、どこからでも業務が続けられる仕組みだ。

一度開発したら終わり、ではない

 「同じ災害は二度起きない。災害システムも常にアップデートが欠かせない」

 開発に携わった同社システム本部長の西村出執行役員はそう強調する。念頭に置いたのが「アジャイル開発」というシステムの設計思想だ。一度開発したら終わりではなく、新しいデータなどを組み込めるよう柔軟性を持たせるようにしてある。それぞれのデータがシステム内で干渉しないよう、地図上に表示するデータのレイヤー(階層)を重ね、必要に応じてボタンで見せ方を変えられるようにした。

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 こうした開発により、パートナーとなる協力会社や自治体からは「うちのデータを加えられないか」という提案も寄せられているという。象徴的なのが「セブンカフェ」を提供するコーヒーマシンだった。22年初頭、マシン納入元の担当者から「給水センサーのエラー情報を吸い上げれば、店舗ごとに断水状況を把握できるのでは」と打診を受け、すぐに実装に取りかかった。

 データは間もなく生きた。9月下旬に本州付近へ近づいた台風15号の影響で、静岡県では線状降水帯が発生。静岡市や浜松市で観測史上最大となる降水量を記録し、停電や断水が相次いだ。行政からの発表情報も交錯する中、同社は詳細な断水状況を把握することができた。「いつの間にか、行政ですら把握できないほどの細かなメッシュ(網目)の情報網が出来上がっていた」(西村氏)

台風15号後の静岡市内のマップ。断水している店舗については蛇口のイラストに斜線が入ったマークが表示されている
台風15号後の静岡市内のマップ。断水している店舗については蛇口のイラストに斜線が入ったマークが表示されている
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 実際、自治体や企業から「システムを使わせてほしい」という問い合わせも絶えないという。例えば、保険会社。被災者に給付金を出すには被害の算定が必要だが、時間がかかってしまう。そこでセブンVIEWで被害が大きかったエリアを把握できれば、すみやかに給付金を出せるというわけだ。

セブン&アイ・ホールディングスでは災害を想定した図上演習も行っている
セブン&アイ・ホールディングスでは災害を想定した図上演習も行っている

 それでも「可視化できたことに満足せず、使いこなせなければ意味がない」(西村氏)。セブン-イレブン・ジャパンとしても図上演習などを通じて、万全を期していく考えだ。「システムを運用するのはあくまで人間」ということを忘れてはいけないのだろう。

この記事はシリーズ「可視化で変える経営」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。